したいときにはそれはなし『モズ 葬式探偵の帰還』

出会ったときには最終巻でした。

吉川景都/集英社
『モズ 葬式探偵の帰還』

面白そうな漫画を本屋さんで見かけて帯を見たら最終巻と書いてある、その悲しさ!
自分がその作品を知らなかったことも悲しいし、既に終わった作品だということも悲しい。
でもあるから買うことができる、じゃあここは買うしかないですよね。

葬式探偵と呼ばれる民俗学者と相棒が様々なお葬式とそれにまつわる事件に巻き込まれたりするお話。
探偵とタイトルにありますし、基本的には事件が起こって解決しますが、この作品で一番面白いのはそこじゃなかったりします(もちろん事件はしっかりしてますよ)。
主人公が民俗学の教授で、全国の色んな土地のお葬式のしきたりにとても詳しいんです。

お葬式ってやはりその事態に直面しないと中々動かないことだし、事前知識ってあまりないことが多いと思うのですが、この先生はそこの知識が素晴らしく、それでもって小さな違和感から事件を解決する、という仕組み。
事件は色んな事情があって起こるのですが、この先生が“お葬式は故人を送るため、また送る側の区切りでもある”という旨のことを言うのですが、本当にその通りだなあと。
誰かが亡くなるって本当に辛く悲しいことだけど、お見送りというのは悲しみを無理やり収めるのではなく、悼みの気持ちを大切にしながらも生きている人たちが明日以降も暮らさなければいけない日常に戻るためのリセットの機会でもあるんですね。

また、(都会ではどうかわからないのですが)自分の地元もそうですが、田舎の方だとお葬式はほとんど近所の方々が取り仕切ってくださいます。
ご家族や親族は悲しみの最中動くことが難しいだろうという配慮からの風習なのですけど、それって素晴らしい助け合いのシステムだなと再認識。田舎にもいいところはある。人は助け合って生きている。

ところで買った後に色々調べていてわかったのですが、かつてご紹介したこちらの『鬼を飼う』の作者先生の作品でした。
当然作品の設定等は全然違うものですが、面白さはどちらも引けを取りません!
この『葬式探偵シリーズ』自体はどの巻からでもすんなり読める作品なので、最終巻からさかのぼっても全然OKです。
私は既刊も書店と電子書籍でそれぞれ買いました。実はこの作品、初連載時の単行本はもう一般経路では手に入らないのです(電子書籍はある)。
掲載誌の休刊、移籍など色々な事情があるようですが、そう考えるとこうして最終巻が無事に発売されただけでもありがたい。
やはり漫画にしても他のどんなものにしても、もちろん私たち全ての生きものも、いつ何があるかわからないから、それがあるうちにやれることをできるだけやっておいた方がいいんだなとしみじみ実感しました。

親孝行したいときには親はなし、といいます。
読みたい漫画が今そこにあるなら、好きになったものがそこにあるなら、今行動するべきです。
是非。


何もしなくても日は昇り暮れていくって、辛いときには残酷ですよね。

やまなか(仮)
貯蓄もないのに漫画をジャケ買いしては一喜一憂しているどうしようもない人間。
狭く浅く生きています。