『等身大により近い存在』

映画『武曲 MUKOKU』で融(トオル)を演じてみて、いかがでしたか。

融を生きることはすごく楽しくて幸せな時間でした!身体的に大変なシーンはありましたが、男の理屈が細かく書かれていて燃えました(笑)。原作で既に面白いと思ったのですが、映画の撮影に入ってからは原作のことは一旦忘れてリセットして、熊切監督と共に台本に向き合いました。
音楽と剣道は僕にとっては身近なモノだから、そういう意味でも等身大により近い存在だったのかも。

村上さんの剣道経験はどのくらいですか?

小学生の時に何年かやっていて、一応有段者です。
僕自身は、剣道は稽古がどうも嫌いでした(笑)。防具は夏は暑いし冬は寒い。結局、剣道は始まりがスポーツではなく修行の一種だから、環境の良し悪しは関係ないんです。
でも剣道は本来生死が直面するスポーツではないんです。でもこの映画の矢田部一家はそうじゃない。融もそうじゃない。精神世界での殺し合いがそこにはあるんですよね。

融は常に死を身近に感じている役でした。

最近は普通に暮らしていても大気汚染や放射能、食べ物の汚染があるし、自殺者も増えてるから、全くの実感がないわけではない。でも自分が死ぬっていう感覚が融ほど死が身近なものかと言われると…うーん。彼ほどリアルじゃないですね。
海や水の怖さを知ってるという点では、僕と融はかなりリンクしています。崖の一番端っこに立つだけでもやっぱり怖いし、死への意識は変わります。沖縄に住んでいた頃は海が近かったから、台風とか悪天候になると本当に恐ろしかったです。僕は泳げるので最悪なんとかなるだろうと思ってはいるけれど、やっぱり怖い。
でも、心の問題も大いにあると思います。10代の頃って家族への反抗心や、自分・他人関係なく、どこかで死への思いみたいなものがある。自分で自由にできるお金がないのも大きいのかも。お金があるとないじゃ人の精神状態って全然違うと思うんです。

『成長と共犯』

綾野剛さんとは初共演ですね。

そうですね。でも初めて綾野さんに会ったのは、仕事は全然関係ない食事会でした。僕はまだ未成年だったので隅っこで静かにジャスミン茶を飲んでいたんですけど、夜遅くなる前に帰ろうと挨拶に行ったんです。そしたらそこで3、4回ハグされました。僕のデビュー作『2つ目の窓』について、良さを語ってくださって…綾野さんは酔ってらっしゃいましたけど(笑)。

綾野さんに正面からぶつかってみた印象を教えてください。

内面はもちろんですけど、この(役の)ビジュアルを作ったことがすごいなと思います。身体つきが美しい上に、このワイルドさ。いつもはあんなに清潔感のある方なのに、野獣みたい。
融は制服を着てますからね。制服って清潔感の塊じゃないですか。融はその中にちょっと攻撃性がある、小さな怪獣みたいな感じ。野獣VS小さな怪獣ですね(笑)。
融からすると、綾野さん演じる矢田部研吾は得体の知れない恐ろしい存在でした。彼に関わる事で融は何かを知ろうとしたんだと思います。
僕個人としては、綾野剛さんといえばロングヘアだったので、今回久々に髪の長い綾野さんで、そこもグッときました。

融が謝ったあの心境はどういうものだったんですか。

彼があの場で言ったことは、僕には全然わかりませんでした。本来あそこには答えがないから。原作を読んでも、何故あそこで彼がああ言ったのか、その感覚がわからない。でもそれは、僕と融が違う人間だからじゃなくて、僕がそこまで辿り着けていないからなんじゃないかと。だからそこまで行きたかった。最終的には融を通して答えを見つけられた気がします。
僕自身、あのシーンはとても好きなシーンです。

その答えとは、具体的に言うと何でしょう?

聞かれると思った!(笑)
具体的には言えないというか…理由はないんですよ。あそこに辿り着いた人にしかわからない何か。融の成長でもあるし、融は研吾の共犯者でもある。
上手く言えないけど、あそこで腑に落ちたんです。言葉で表現するのは難しいです。

『綺麗事も事情も関係ない』

熊切監督とのお仕事はいかがでしたか。

熊切監督の現場には、綺麗事がなかったです。大人の都合もなかった。もちろん映画を作る以上どこにでも色んな事情があるとは思うのですが、役者と熊切監督の間にはそういった都合や事情はなかったです。融もそれは同じ。自分が信じたことをやっているんです。それが熊切監督の素敵なところだと思います。
現場では今まで以上に芝居に人生や答えを求められました。いつか一緒にお仕事してみたかったので、今回それが叶って嬉しいです。

そんな熊切監督との現場でのエピソードを教えてください。

監督は、いつも頭にタオルを巻いて武士みたいな格好で『いいっすねー!』ばっかり仰っていました(笑)。
監督自身は剣道経験がなかったみたいです。今回僕が剣道経験者だけど初心者の芝居をしなければならなかったので、初心者の見本を監督にやってもらいました(笑)。

改めて映画『武曲 MUKOKU』の見どころを教えてください。

この作品は、純粋に映画としてとても面白いです!
漫画原作が多い最近の中では、渋いお話を敢えてシンプルに作っている珍しい作品。しかも題材が“決闘”ですよ。ロマンが詰まってますよね!自分の中で迷っても、信じて突き進むことの大切さが描かれている。
剣が主題の映画も珍しいので、是非これを見て興味を持ってもらえたらいいな。剣ってフェティシズムをくすぐると思うんですよ。色っぽいですもん。綾野剛さんの色気を存分に堪能できると思います。その辺りも含めて是非ご覧ください!
僕自身、あのシーンはとても好きなシーンです。

『いつかそこに辿り着けたら』

今秋公開の映画『二度めの夏、二度と会えない君』では主演ですね!

ニドナツは、タイムリープのお話です。僕は純粋な高校生・智(サトシ)役。この作品ではバンドでギターをやっています。
『武曲 MUKOKU』ではラップをやったわけですけど、ラップよりはギターの方が自分には合ってるのかなと(笑)。趣味ならギターの方がいいかな。
ラップはとても難しかったです。完全に身体表現なんで、音だけでもだめ、言葉だけでもだめですからね。ラッパーの方のノリを僕自身が普段から持ち合わせていないから、難しかった。
ニドナツ、本当に切ないいいお話なんです。こちらも是非見てもらいたいです。

20代になった今、10代の特有のリビドーみたいなものはあったと思いますか?

そうですね…基本的なイタズラはできなくなりますね、もう大人なので(笑)。10代だったら怒られてもいいか!って思うことも、難しくなるんですかね。例えば東京って道端で花火ができなかったりするし。夏だとやりたくなっちゃいますけど、そうもいかないんですよね。
この仕事をする上で色んな事を怖がっていられないなと思うんですが、今はそういうことに関して厳しい世の中になってると思うので、どうしても慎重になります。

村上さん自身は何かに急にのめり込んだ経験はありますか。

沢山ありますよ!結構何でもハマるタイプです。ギター、バトミントン、バスケットボール、読書や映画も。
芝居もそうですね。ありがたいことに沢山作品をやらせてもらってますが、自分ではまだまだこれからです。
役者は、人と人との仕事なので、この世界で『この役は村上虹郎しかいない』と言ってもらえるようになりたいです。
どういう人生を経て、どういうことをしても、いつかそこに辿り着けたらいいなと思っています。まだまだ歩んでいきますよ!

村上虹郎 プロフィール
1997年生まれ。映画『2つ目の窓』で主演を務め、俳優デビュー。この作品で第29回高松映画祭最優秀新人男優賞を受賞。
主な出演作に、ドラマ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『仰げば尊し』、映画『忘れないと誓ったぼくがいた』『ディストラクション・ベイビーズ』、舞台『書を捨てよ町へ出よう』『シブヤから遠く離れて』など。
今後の活動としては、『二度めの夏、二度と会えない君』(17’秋公開)、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(17’9月公開予定)、『Amy said』(17’9月公開予定)の公開が控える。
現在出演CM「LIFULLスタート 『母から息子へ』篇」がO.A中。

©2017「武曲 MUKOKU」製作委員会
映画『武曲 MUKOKU』http://mukoku.com/
破滅か、救いか― 闘うことでしか生きられない男たち 激しく燃えさかる魂の対決!
海と緑の街、鎌倉。矢田部研吾は、幼い頃から剣道の達人だった父に鍛えられ、その世界で一目置かれる存在となった。ところが、父にまつわるある事件から、研吾は生きる気力を失い、どん底の日々を送っている。そんな中、研吾のもう一人の師匠である光邑が彼を立ち直らせようと、ラップのリリック作りに夢中な少年、羽田融を送り込む。彼こそが、本人も知らない恐るべき剣の才能の持ち主だった──

撮影:大村祐里子