やっぱりバンドやろうぜ!『シング・ストリート 未来へのうた』

☆☆☆☆(星4つ)

「ONCE ダブリンの街角で」、「はじまりのうた」と2打席連続のホームランで「音楽もの映画を撮らせたら間違いない男」のイメージを確立したジョン・カーニー。
でも新作が80年代のアイルランドを舞台にしたバンドものと聞いた時は「え、また音楽のやつすか?」などとつまらないことを言う輩もいたかもしれないけど、なんのことはない。そんなやつらを黙らせるバッチリの傑作だった。その節は本当にすいませんでした。

大不況にあえぐ80年代のアイルランド・ダブリン。両親の離婚危機、突然の転校、そして転校先の学校は学級崩壊という最悪な日常を鬱々と過ごす青年コナー(フェルディア・ウォルシュ・ピーロ)は街で出会ったモデル志望のラフィーナ(ルーシー・ボイントン)に勢いで「俺、バンドやってるんだけど、PVに出ない?」と声をかけてしまい、急遽バンドを結成することに…。

このコナーくんの「俺ってバンドやってんだよね~」で中学生の頃、全然弾けないくせにギター薀蓄を語り出したり、ギターを持ってもいないのに「弾きすぎて腱鞘炎だわ~」などと言い出す輩が続出したことを思い出した。
クラスメイトに「俺、曲作ったんだよね」と言われて聞かされた曲が思いっきりDragon Ashのパクりだったこともあった。
この映画はそういう甘酸っぱ仄暗い記憶をガンガン刺激してくるんだ。

なんだかんだでメンバーを揃えてバンド「Sing Street」結成に成功したコナーくんは仲間たちと音楽づくりに没頭。
この仲間たちもみんないい味出してたんだけど、これは音楽映画なのでどれだけストーリーが感動的だろうと、キャストの演技が素晴らしかろうと、肝心の音楽が心をつかまなければ意味がない。
でもそこは過去2作でもその壁を見事に乗り越えてきたジョン・カーニー。80年代の匂いを真空パックした100点満点の青春音楽を仕上げてくる制作チームのレベルの高さはさすがとしか言いようがない。

狭い部屋でぼそぼそと始めた作曲、うまくいかない初めてのPV撮影、そして卒業パーティーでの初めてのライブ演奏…
Sing Streetの活動全てにきらめきが満ちていて、薄汚れた大人は消滅しかねないまばゆさなので注意が必要だ。

なにかに夢中になるあまり生まれた恥ずかしい過去もたまらなく愛おしい思い出に変わって成仏していくような、音楽にかぎらない普遍的な感動にあふれた映画。

☆☆☆☆…でも本当はもっと全然ダメなバンドのほうがグッとくるんじゃないかと思わないでもない。ちょっと曲がよすぎるんだ。

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ロックバンドの約束の地、Glastonbury Festivalに行ってきました。マカロニチーズを買ったら「店の宣伝をしてくれ!」と言われたのでこの場を借りてしておきます。Anna Mae’sのMac’n Cheese、おいしいです。

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
https://twitter.com/odkysyk