☆☆☆☆(星4つ)
偶然出会った男女の変遷を9年ごとに切り取った超名作「ビフォア~」シリーズ、一人の少年の成長を実際に12年かけて撮影したこれまた名作「6才のボクが大人になるまで」と、長い時間の中で永遠に色あせない瞬間をいくつも描いてきた名監督リチャード・リンクレイター。その「6才の~」の精神的続編という今作は打って変わってたった3日間のお話です。実験的な作品も挟みつつも、ここぞという時は本当に外さないな、このおじさんは。
1980年代のテキサス。名門大学に野球推薦で入学することになったジェイク(ブレイク・ジェナー)が野球部の寮を訪れると、そこにはとんでもないチームメイトが待ち構えていた。光の速さで一目ぼれした同じ新入生のビバリー(ゾーイ・ドゥイッチ)も現れ、新学期スタートまであと3日と15時間。恋に野球に酒に音楽に×××に△△△に大忙しの狂乱の日々が始まる!
大学生活のあれこれを描いた映画は数あれど、大学入学前のまさにモラトリアム中のモラトリアムともいえるこの日々が放つエネルギーはちょっと類を見ない。まさに「始まりの始まり」。感傷的になる瞬間など全く訪れない。3日間フルスロットルでバカなことと野球しかしない、まだ何者でもない若者たちの姿は気持ちいいくらいにハッピーだ。
それでも「物事は始まる前が一番楽しい」というある種の真理(個人の見解です)をすでに悟った観客は勝手にこの映画の全てを美しく、かけがえのないものに変換して観てしまう。リチャード・リンクレイターはそれをわかっているからこそ、作品から甘美な言葉や叙情的な表現を一切なくして、バカなこと以外何も起こらないこの映画を作りあげたのかもしれない。
文科系のボクなどからするとThe SmithとかThe Cureとか(80年代のイギリスのへんてこなバンドです)を聴いてたら同じ趣味の女の子と出会って…みたいな話にグッときたりして、体育会系の人たちとはお互いにあまり接点がなかったけど、この映画で女の子をナンパしても野球の話しかできずに呆れられたり、クラブに行っても音楽なんかよく知らないからとにかく踊りまくるしかない野球部のやつらを観て、「君たちも大変なんだなぁ」となんとなく過去と和解できたような気がする。これからは社会で体育会系あがりの人を見かけても優しく接してあげたい。
バカなことしかしない若者たちに笑わせられっぱなしなんだけど、気づくと心のやわらか~い部分を刺されて重傷を負うような作品。悔しい!あいつらホントにバカなのに!
☆☆☆☆…12年かけた大作の次がこれっていうのがなにしろ最高ですよね。ホンットに何も起こらないんだ。
青春の輝きに負けじと肉割烹の名店「かがやき」へ。若者が野球で血と汗を流すなら、俺たちには松坂牛のメンチカツサンドからこぼれ落ちる肉汁がある。
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
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