盲目バトル老人ホラー界(業界狭め)の真打来たる!『ドント・ブリーズ』

☆☆☆☆☆(星5つ)

「イット・フォローズ」「死霊館 エンフィールド事件」「ライト/オフ」など良作が相次ぎ、ホラー映画の当たり年となった2016年。しかし真打ってやつはいつも最後にやってきやがる。しかもその主役は死霊でも怨念でもなく、盲目の老人。じいさん。もちろん超能力一切なし。霊的現象一切なし。それでいて2016年のナンバーワン恐怖映画は間違いなくこの作品です(当社調べ)。

犯罪多発都市と化したデトロイトで空き巣稼業を営むシングルマザー、警備会社社員のせがれ、そのへんの荒くれ者の3人組は近所に住む退役軍人(スティーブ・ラング)が娘の事故死で得た多額の慰謝料をボロ家に隠し持っているという情報をつかむ。しかも老人は湾岸戦争で負傷して盲目。
経済とともにモラルも崩壊した街デトロイト育ちの3人はこの一見楽勝に見える物盗り案件に挑むが、老人は視力の代わりに聴力を発達させ、暗闇での戦闘に異常に特化した殺人老人だったのだ!
飛んで火に入る3人組の運命はいかに!!!!

そもそもこの映画の噂は2015年頃から耳にしていて、「じいさんがめちゃ強らしい」「犬も襲ってくるらしい」「フォースが使えるらしい」などの事前情報と恐ろしい予告編ですっかりハードルがあがりまくった状態だった。これはよくない兆候だ。時間をかけてじわじわと期待値があがりすぎた挙句、実際観たときになんとなく落胆するパターンはよくある。

でも大丈夫。「ドント・ブリーズ」の盲目じいさんは観客の期待値をはるかに上回る迫力で襲ってきます。
音、匂い、空気…視力以外の五感全てで侵入者を察知して問答無用で襲ってくるじいさん自体の恐ろしさはもちろん、暗闇では割れたガラスの破片なんかのちょっとしたものが凶器に変わる。これも地味に怖い。
逆に言えばそのへんの家具が武器になったりもするわけで、決して超人ではない(異常だとは思うけど)じいさんとのバトルはただのコソ泥でもギリギリ対抗できそうな絶妙なバランスが保たれているのが実にエキサイティング。

あくまで普通の人間であるじいさん。そのリアルな戦闘力を補って余りあるとんでもない秘密が「これ別にじいさんは正当防衛で全然悪くないんじゃ…」と戸惑う観客を恐怖に叩き込む。
この狂った展開が恐怖と紙一重の笑いを提供してくれて、ボクなんかはすごく好きな塩梅なんだけど、普通のドン引きする人もいるだろうな。でもそれがいい。

コソ泥が返り討ちに遭うだけの話を90分間最後まで飽きさせず、びっくり箱的な驚かせ方に頼らないアイデアも満載。特に文句を言うところがない恐怖エンターテインメント作品です。ブラボー!

☆☆☆☆☆…「ローグ・ワン」といい、盲目おじさんが暴れる映画をうっかり2週連続で紹介してしまったな…。


新年初うなぎが香ばしすぎてブリーズしまくってしまった。はぁはぁ

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
https://twitter.com/odkysyk