☆☆☆☆(星4つ)
名作「舟を編む」では“コミュニケーション能力に難ありながら、持ち前の真面目さで辞書作りに奮闘する馬締くん”を見事に具現化した石井裕也監督の最新作。
原作はなんと同名の詩集。ボクは監督以外の情報はほとんど持ってなかったので、観てる最中は「なんかちょいちょいポエム挟んでくるなぁ~」などと思ってたんだけど、詩集なら仕方ない。
看護師とガールズバーの二足のわらじで働く美香(石橋静河)と、建設現場で日雇いの仕事をしている慎二(池松壮亮)は東京の街のあちこちで偶然の再会を繰り返す。
孤独をこじらせ気味の美香と、日々の隙間を埋めるようにひたすらしゃべり続けては周りから浮きまくる慎二というおかしな二人は、会うたびに変な感じになりながらも徐々に交流を深めていく。
この主人公の二人と言えば性格的になんとも生きづらそうだし、なにより生活のほうも決して楽ではなさそうで、二人を取り巻く周囲の人たちの境遇も含めて、そのへんのリアリティは際立ってるを通り越してもはや胸が苦しくなるレベル。みんな全然うまくいってないのになんとか東京にしがみつく様が自分を見てるようでなぁ…。
それに加えて石橋静河の初心者感と瑞々しさという表裏一体な要素の絶妙なミックス具合が美香というキャラクターにぴったりハマってて、ボクはこういう「そのへんにいそうな人」をちゃんとそのへんにいそうに描いた映画がすごく好きなので、えー、すごくよかったです。
やりすぎるとわざとらしくなるし、あざとくなるのでさじ加減が難しいんだけど、そのへんのバランスが非常に鋭かった。
田中哲司の派遣労働者っぷりもすごい。本当に死ぬほど腰を痛めてそうだし、コンビニの店員さんに恋してそうな哀しくも儚い人間で、この人もそこらへんにいそう。ていうかむしろもう周りにいるよ。これウチの会社の◯◯さんだろ。
はっきり言って劇中に挟まれる詩についてはほとんど何も覚えてないし(すいません)、特になにか強烈なエピソードがあるわけでもなく(もちろん多少はあるんだけど)、パッとしない生活になんとなく光が差してくるだけの話なんだけど、東京を舞台にこういう優れた作品が作られるのって、少なくとも今この街で生活するボクらにとってはすごく大事なことかもしれないなぁ…などと脳内でポエムを詠みながらちんたら歩いてたら水たまりで死んだネズミを踏みそうになった。東京はクソ。
☆☆☆☆…帰ったら原作の詩集を読んで東京を練り歩こうと思ったけど、よく考えたらもう東京都民じゃなかったのでやめた。
近所の名店のサンドイッチ。苦しい生活にそっと寄り添う優しい味。
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
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