☆☆☆☆(星4つ)
デビューから話題作を連発し、ついには「ブレードランナー」の続編を手掛けるまでになった、今まさにノリにノッてるドゥニ・ヴィルヌーヴの最新作。
すでに賞レースを散々騒がせてるわけだけど、個人的にはイマイチ不安があった。果たしてこの人はこういう大作映画でもちゃんと持ち味を発揮できるのだろうか。ていうか持ち味を発揮して大丈夫なんだろうか、と。
「複製された男」の難解極まる内容、「ボーダーライン」のデルトロ無双…これまでのドゥニさんの印象的な仕事と、観終わった後で「ポカーン」と口を開けて呆然とする自分の顔が頭をよぎる。
果たして大丈夫なのか!(大丈夫でした)
最愛の娘を病気で亡くした言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)。そんな沈痛な空気を読まずいきなり地球に現れた宇宙人との交信のため、通訳として仕方なく宇宙船に赴くことに。しかし宇宙人=ヘプタポット(七本足)の言語はといえば人間には発声できず、文字はめちゃくちゃに複雑。果たしてヘプタポットは地球になにしに来たのか。話は通じるのか。ルイーズと仲間たちの悪戦苦闘が今、始まる。
以上のようにあらすじは「宇宙人と話すためにみんなでがんばる」という実にシンプルなものなんだけど、「宇宙から変なやつらが来たら実際どうする?」をここまで地道に、限りなく現実的に描いた映画はかつてないんじゃなかろうか。少なくともボクが日頃親しんでる映画では「ミサイルを撃ち込む」か「とりあえず乗り込む」が常套手段だったので余計にそう思う。宇宙人もすぐ襲ってくるし…。
今回のヘプタポットくんは全然そんな野蛮な連中じゃないんだけど、見た目は典型的なタコ足エイリアンなのでジェスチャーは伝わらないし、文字もおしゃれすぎて解読困難…。それでもルイーズたちとヘプタポットはごく簡単な単語からコツコツと言語セッションを重ねていくうちに、その結果として話が思わぬ方向に変わっていく。その転換がすごい。
原作小説が世間に与えた衝撃をうまく映画で再表現していると思う。構造的に映像化は困難を極めたであろう作品をドゥニさんは硬派なSFとエンターテインメントをミックスして見事着地させることに成功したのだった。
起伏をつけるために宇宙船を巡る国同士の対立やなんかが盛り込まれていて、そのあたりはややステレオタイプな部分もあったかもしれないけど、映画のトーンを維持したままエンタメに昇華するために必要な措置の範疇ということで大目に見たい。やっぱりいきなりミサイル撃っちゃうやつもいるよね。わかるわかる。
☆☆☆☆…最近ネタバレにすごく気を使う作品が続いて疲れるので次回こそは単純な映画を取り上げたい。
「宇宙船に似てる」と言われてば●うけが調子に乗ってるみたいなので、こっちはちょっと似てるような気がする餃子で対抗したい。
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
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