世紀末バイオレンス子育て介護ロードムービーの決定版『LOGAN/ローガン』

☆☆☆☆(星5つ)

「X-MEN」シリーズ、いやさアメコミ業界でも屈指の人気を誇る不死身爪おじさんことウルヴァリンを十数年に渡って演じてきたヒュー・ジャックマンの引退作。
正直「X-MEN」の熱烈なファンではないし、ウルヴァリン単独作に至っては全くノータッチだったんだけど、今回は予告編の時点でいつもと全然違う、アメリカンニューシネマ的に乾いた雰囲気がムンムンと漂っていたので、葬式厨(=グループの解散公演だけ参加する輩)と呼ばれることも厭わず最後の花道をしかと見届けてきた。

舞台は2029年。ミュータントがほぼ絶滅した世界で、素性を隠したまましがない運転手として生きるローガン=ウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)。無敵の力と不死身の身体もすっかり衰え、毎日バカな客を送り迎え、時には不良に絡まれる散々な毎日。そのうえかつてのボス、プロフェッサーX(パトリック・スチュワート)は認知症を患った要介護状態で、ローガンは介護疲れから酒が手放せないという有様。ある日仕事の途中で一人の少女と出会うが、それがきっかけで少女を狙う悪漢たちに襲われる羽目に。未就学児童、要介護老人、そして満身創痍のアル中による決死の逃避行が始まる…!

世界からミュータントが姿を消し、ローガンたちが隠れ住むメキシコ国境付近はなんとなく「マッド・マックス」を彷彿とさせる荒廃っぷり…
劇中ではそのあたりの事情は特に説明されないものの、ローガンたちが明日をも知れぬ苦しい生活に身を窶していることはよく分かる。そんな二人が数少ないミュータント新世代である少女を連れてアメリカ横断の旅に出る、という物悲しいストーリーが、西部劇のようなタッチと限りなく抑えたトーンと描かれる。
この時点でもう本来のアメコミ映画を大きく逸脱しているんだけど、ヒーロー映画の新機軸というだけでなく三世代の疑似親子によるロードムービーとしても素晴らしい出来栄え。

しかし今作に凄みをもたらしているのはなんといっても圧倒的な暴力だ。
ウルヴァリンといえば爪で敵を倒すのでまぁある程度のことは仕方ないんだけど、それにしても今回はひどい(絶賛)。「鋭い爪が人体に刺さったらどうなるか」をとことんハードに追求していて、血しぶきの量が尋常じゃない。「切り裂く、突き刺す、引っ掻き回す」のオンパレード。そしてまたいちいち人体破壊をカメラに映す姿勢が実にしびれる。
「ヒュー・ジャックマン版ウルヴァリン最後の活躍を余すことなく見届けるためには、多少のR指定はやむをえない」という監督の心意気を感じて。

ターゲットは完全に大人。それも自らの、そして家族の老いに悩み苦しみ受け入れる世代がそしていかに未来にバトンを渡すか。
ローガンの戦いぶりがそれを教えてくれること間違いなしの、人情と暴力にまみれた異色の傑作。

☆☆☆☆☆…なんか書いてるうちに盛り上がってきて☆5つになってしまいました。


飛び散る肉片を観ていたらいつのまにか焼肉屋に飛び込んでた。

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
https://twitter.com/odkysyk