最初にして最高の韓国ゾンビマスターピース『新感染 ファイナル・エクスプレス』

☆☆☆☆☆(星5つ)

仕事に没頭するあまり奥さんには逃げられ、共に暮らす娘ともうまくいかないファンドマネージャーのソグ(コン・ユ)。母親に会いたいとグズる娘のため仕方なく「釜山行き」の高速鉄道に乗って元妻に会いに行くが、時を同じくして韓国中にゾンビウイルスが蔓延。ソグ親子が乗る列車にも感染した乗客が紛れていたのだ。
あっという間に感染が拡大し、時速300kmで突っ走る密室と化した阿鼻叫喚の車内で、他の乗客といがみ合い、助け合い、戦い合い…親子は生きて釜山にたどり着くことができるのか!

観測できる範囲でも毎月、いや毎週のようにゾンビ映画が(劇場/ビデオスルー問わず)公開される現代。
ゾンビの恐ろしさはもはや飽和状態で、ドラマ「ウォーキング・デッド」では人間があまりに凶暴すぎてゾンビは完全に添え物と化してるし、ゾンビ化の対象(動物園まるごと、蜂、サメ、ナチス…etc)やトリッキーな登場および感染の仕方なんかでなんとか差異化を図ってはいるものの、革新的な表現というのはなかなかお目にかかれなくなってきている。
この「新感染」もゾンビ自体に取り立てて新しいところはない。が、それでもゾンビ映画としてこの映画を唯一無二にしているのは特急電車内の攻防というシチュエーションと、キャラクターの絶妙な描きかただ。

魅力的なキャラクターを投入して「こいつだけは無事に生き延びてほしい!」という感情移入で恐怖を補強していくやり方はもちろんホラー映画全般の常とう手段だと思うけど、それをここまでうまくやってのける作品はそうそうない。
ゾンビ映画にしては長めの120分という尺はあるものの、決して冗長にならない必要最低限の時間でキャラクターを描き、活かし、そして使い切る。そういうきめ細かい演出を最初から放棄してしまう、切り捨ててしまうホラー作家が多い中(もちろんその雑さ、荒さがゾンビ映画の魅力でもあるんだけど)、しっかりと一本筋を通してくるところがえらい。今や世界有数の映画特産地になった韓国で初めて作られるゾンビ映画だけあって気合が入ってるぜ。

「頼むからこいつは生きてくれ…」というプラスの感情と「こんなやつ早く殺せ!」というマイナスの感情、二つつのベクトルから生まれるカタルシスで観客を見事にノセる技量が群像劇としの魅力を倍増させていて、ここまでやられたら観客としても盛り上がらざるをえないですよ。
正直「ゾンビ映画としてカウントするにはちょっと出来すぎじゃないか…」と思わないでもないけど、そんな面倒な好事家は放っておいてエンタメ映画としては限りなく100点に近い傑作。


この後で食べたサムギョプサルの画像は食い散らかして載せるに耐えない有様だったため、代わりにきれいに焼けた餃子。

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
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