仕事はつらいし、人生は苦しいけど、映画のように生きよう『パターソン』

☆☆☆☆(星4つ)

ニュージャージー州パターソン市でバスの運転手として働くパターソンくん(アダム・ドライバー)。
朝早く起きて朝食を食べ、バスでは様々な乗客の会話に耳を傾け、昼は奥さんの手作りカップケーキ弁当を食べながら趣味の詩作に勤しみ、夜は愛犬の散歩がてら近所のバーでビールを一杯…。そんなパターソンくんの同じようで同じでない月曜日から日曜日の穏やかな記録。

名もなき人々の生活を描かせたらアメリカで右に出る者なしの名匠ジム・ジャームッシュの新作。
「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」では暗黒面に落ちて部下や父親相手に見境なくキレては暴れまくってたアダム・ドライバーもすっかり落ち着きを取り戻して、コツコツ詩を書いたり、ビールを飲んだりしておとなしく過ごしているようでよかった。その代わり奥さんがわりとファンキーな人で、突然カップケーキを大量に焼いたり、部屋の模様替えを決行したり、変な柄のギターを通販で買ったりと突飛な行動に出るんだけど、パターソンくんは基本的に温かく見守って特に文句を言ったりはしない。夕食によくわからないパイを出された時はかなり水で流し込んでいたけど、それでも露骨に嫌な顔をしたりしないでえらいですね。

SNSを覗けば他人の生活がいやでも目に飛び込んでくる現代。「他の人はこんなにエキサイティングな暮らしをしてるのに、ボクのこの同じことの繰り返しみたいな生活はいつまで続くんだろう…」などと考えることがないでもない。むしろけっこうある。でも「パターソン」のパターソン市に住むパターソンくんの生活を見てると毎日の繰り返しに対して少しだけ前向きになれる。
パターソンくんにとっての詩は、別にカップケーキでもTwitterでもなんでもいいんですよね。同じ家に帰ってきて同じような料理を食べて同じような夫婦生活を送ったとしても一日の終わりにポロンと弾いたギターの音色にはその日その時だけの特別な響きがある。たいそうなことはしてなくても、毎日を繰り返すというのはそれだけで尊いことなんだなぁと思える優しい眼差しがこの映画にはある。

仕事はつらく、人生は苦しくても、そんな日々のささやかな起伏に潜むオリジナルな詩を例えば料理に見出してみたり、家族の何気ない会話に見出してみたり、SNSの投稿に見出してみたりして豊かに生きていきたいものだ。
Twitterに夜な夜なポエムを書いては翌朝後悔したりしながら強く生きていきましょう。


最終回っぽい内容になってしまったけど、最後はこないだ食べた人生で最高のステーキ。生きていればいいこともある。

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
https://twitter.com/odkysyk