こんな学園生活があってもいい『湯神くんには友達がいない』

私が今一番新刊を楽しみにしている作品、それがこちら。

佐倉準/小学館

『湯神くんには友達がいない』。

友達、いますか?
友達のことを考えるとなんだか不安になりませんか?
「私たちって友達ジャン!」と言われて密かに胸を撫で下ろしたことありませんか?
友達と思っているのは私だけかもしれない。仲良いのはその場だけで本当は裏ではどうのこうの…

でもいいんです。気にすることはないんです。
湯神くんは、それを教えてくれます。
彼は、友達などいらないと公言し、人に意見を合わせることは一切なく、単独行動おかまいなし、周りからどう見られようが全く興味がない。興味があるのは落語だけ。
とはいえ彼は野球部のエースで勉強もできるから、変わり者だけど周りがなんとなくフォローをしてくれるだけのような気もしますので、普通の人は真似しないほうが得策だとは思いますが。

この作品が秀逸なのは、彼を囲む他のキャラクターも確実な魅力があり、絶妙なキャラ付けがされていること。
主人公は転勤族の家庭で育った女の子なんですが、彼女は友達を作るのがあまり上手ではなく、かつ転校が多いので、その度に友達作りに翻弄されています。
そこが湯神くんとの対比になるわけですが、読んでいると、おびえてまで友達を作る必要はあるのかしら?と考え直してしまう瞬間が来ます。これは自分の意識なのか、湯神くんに触発されているのか、そこが曖昧になってくる。
もちろん、友達はいたら楽しいのは大前提ですけど。

あと、女子グループにいがちな、束縛する女の子も出てきます!
主人公がやっと仲良くなった子がいるんですけど、その束縛子さんは、自分の友達が取られる気がして嫌なんですね。
いるなー。こういう女性、いますねー。大人になってもいる。男性でもいる。不思議だ―。

と、こんな具合に基本的には『湯神くんと湯神くんに振り回されるけど最終的に放ってはおけない人たち』でお話は構成されています。
悪人は出てこない。みんな普遍的で、みんなちょっとずつ変。
学校生活の話ってどうしてもドラマチックになりがちというか、いじめとか、ヒエラルキーとかそういうものにフォーカスされがちですが、実際はそこまで戦場じゃなかった人たちだって多いはず。
その辺りを揶揄するわけでもなく、誇ることも穿つこともなく、淡々としすぎることもなく、まるでこの作品の空気こそ、あの頃の、学生時代のように進んでいく。

現在は8巻まで刊行されています。
7巻で「人の噂も七十五日」が鮮やかに描かれていて、最高に面白いです。
色んな環境が発達しすぎて人間関係に疲れている方も、そうでない方も、是非一度読んでみてください。


LINE疲れとか既読スルーだとか、そういう時代に学生じゃなくてよかったなあと心底思う日々です。

やまなか(仮)
貯蓄もないのに漫画をジャケ買いしては一喜一憂しているどうしようもない人間。
狭く浅く生きています。