特異な日常『花井沢町公民館便り』

ある日、隣のあの子と触れ合えなくなったらどうしますか?

これはそう言いうお話。

ヤマシタトモコ/講談社
『花井沢町公民館便り』

とあるシステムの故障により、見えない壁が町を覆った。
生きている間はそこから出られなくなってしまった人々。

見えない壁に阻まれているだけで、暮らしは何不自由ない。
通販も発達しているし、国からの手厚いケアもある。
でもこの町から出ることはできない。生きている間は絶対に。

穏やかではあるけれど、まごうことなき軟禁です。

事件発生から最終回まで、時系列をかなりランダムに描いているので、より日常っぽさが味わえます。
日常っぽいけど、ぽいだけで、全くの非日常というか非現実というか…

個人的には、最初からこの街の中で生まれ育つことと、途中から閉じ込められてのとでは少し違いが出て来てもおかしくないのでは?というところが気になりました。
でもこの作中ではインターネットやTVなどの環境は今の社会と同じ感じであるみたいなので、外の世界がどういうものか、知ることはできるんですよね。
やっぱりそれは辛いか。出られなくて想いを馳せるだけなら、最初から最後まで知らないほうがいいのかな。
難しいなあ。

これって突き詰めると「町から出られるか出られないか」というのは外殻なだけで、全てに当てはまるような気がしないでもない。
楽しいことがあるなら、美味しいものがあるなら、快楽があるなら、その喜びを知ったほうがいいのか。知らずに死ぬのは相対的には幸せなのではないか?
いや、そこまでの話じゃないのかもしれませんけど。

先日出た3巻で完結ですが、この3巻で「まさに遮断されたその日」がさらっと見逃すレベルで書かれていて、このバランス感覚痺れるぜ!と思いました。
日常が非日常になる日。
それは何も漫画だけの話じゃないんですよね。
相対的にどうあっても、目一杯自分の人生を生きるしかないな、と思える作品です。

そんな感じで、個人的にはストーリーの主軸のカップル話より、市井の人々の短編の方がグッと来ました。
もちろん主軸のカップル話にグッと来る方も多いと思います。だってこれは結構な悲劇。かなりしんどい。

終末思想はないけれど、なんとなくの日常を少しピリッとさせたい方にオススメです。
そうでない方にもオススメです。
是非。


退廃的とか言ってる場合じゃない。

やまなか(仮)
貯蓄もないのに漫画をジャケ買いしては一喜一憂しているどうしようもない人間。
狭く浅く生きています。