反対側の電車に乗ってみる『凪のお暇』

「あ~このまま会社(や学校)を放棄して海とか山とかに行きたい!」
誰しもが一度は考えたことがあると思いますが、実際に行動に移すことって中々稀ですよね。
もっと極端になると、「あーもう全部放り投げて誰も知らないところに引っ越したい!」に進化する。
そんな衝動を実行しちゃったらどうなるんでしょうか。

コナリミサト/秋田書店
『凪のお暇』

空気の読める能力にズバ抜け、しかしそれ故に周りからいいように使われていた気の弱いOL・凪が、とある事件をきっかけに吹っ切れて何もかも捨てて田舎に引っ越したら…というお話。
公式では“人生リセットコメディ”となっております。

可愛らしい表紙や流れる空気感とは裏腹に、OL時代の描写がかなりシビアです。うわ~!こういう人いる!!うわ~!
自分は割とハッキリとものを言う(というか言いすぎて怒られる)タイプで主人公みたいな振る舞いはあまりないとはいえ、でも全くこういう経験ないかというとそうでもなく。
きっとこういう世界は誰にでも可能性として残されていて、むしろそこからどういうチャートを歩むかが重要なのかも、と思うわけですが、彼女は基本的にはひたすら波風を立てないルートを選択し続けてきたんですよね。正しく「凪」の名前の通りに。
自分が我慢すればいいや、いいことだってあるし、ニコニコしてればこれ以上嫌なことはきっと避けられるはずだし…しかしその結果は過呼吸でぶっ倒れるという(彼女にとって)無様なものだったのでした。

そんな逃亡前の地獄の会社描写がピークで、そのあとはゆるゆるな生活のんびりコメディ…という作品になるのかな?と思いきや、ここからもまた面白い!
彼女は彼女なりに強くなろうとし、それは世間からしたらちっぽけな勇気かもしれなくても、着実に前向きに進んでいる。
ちなみに彼女の節約術はハンパなく、そこにフォーカスをあてたものがこちらで無料で読めます

しかしこの元カレ、許せん。可及的速やかに不幸な目にあっていただきたい。
どう非道な男かは是非お読みいただきたいのですが、凪がこの魔の手から自力で脱出したのはおそらく実際にはとても勇気のいることで、自分は読むだけで何もできないけど、絶対に凪には幸せになってもらいたい!
それが最終的に奴を見返すことになるし、何よりそんなこと望んでいなくたって粛々と暮らしていくことがどれほど尊いことか。
自分を大切にするって大切なことですよね。

現実は銀行残高となってひしひしと彼女を襲うけど、ただ毎日を暮らしていくということの楽しさと、少しだけある寂しさのようなものが穏やかに流れる素敵な作品です。
働きたくない夏の日、セミの声をBGMに扇風機の前で是非読んでみて下さい!


大人になったら夏休みは自分で確保するものなんだよなあ。シビア!

やまなか(仮)
貯蓄もないのに漫画をジャケ買いしては一喜一憂しているどうしようもない人間。
狭く浅く生きています。