『演じた僕ですらそう思う』

最初に『散歩する侵略者』の台本を読んだ時の率直な感想を教えてください。

本当に素直な感想を言うと、「何だろうこれ!?」でした(笑)。台本を読むだけだとどういう映画になるのか全く想像がつかなかったです。
自分がこの侵略者の天野という役をもらえたのはとても嬉しくて、映像になることが楽しみでした。

お気に入りのシーンはありますか?

長谷川博己さん演じる桜井さんの演説シーンが一番好きです!天野は聞いてないんですけどね(笑)。
桜井さんが熱弁しても、周囲はあのリアクション。でもそれがすごくリアルですよね。演じた僕ですらそう思います。
映画だからではなく、現実に起こってもああなるんだろうなって。僕もああいうリアクションをとりそうです。

桜井は侵略者の「ガイド」ですが、自分がガイドになったらどうしますか?

僕はただ単純に彼らについていくと思います(笑)。一緒に行動するだけでガイドの役割は果たせそう。ガイドというよりは一緒にいる人になっちゃうけど…。劇中だと桜井さんに近いかもしれない。
知り合いに会った時なんかはかなり困りますね、きっと。自分の役割を説明できないですもん。『僕はこの人のガイドです』って言っても伝わらないですよね。

『概念ってなんだろう』

侵略者として役作りはどうしましたか?

見た目では侵略者と人間の違いは明確ではないので、だからこそ難しかった所はあります。
侵略者3人の中でも天野は特に人間に興味を持っていて、概念や知識・感覚が豊富。人間に一番近いんです。どうしたら普通の人間と違いが出るだろう?と悩みました。
概念って何だ?ということをまず考えました。普段の生活だとあまり使わない単語ですし、改めて考えると難しい言葉だなって。
侵略者と比べると、やっぱり人間の方が感情的だなと思いました。喜怒哀楽を表情など表に出しやすいのが人間ですね。侵略者は、もしかしたら死への恐怖すらないんじゃないかなと思います。ずっと淡々としてますもんね。

一緒のシーンが多かった、桜井役の長谷川博己さんの印象を教えてください。

桜井さんはとても台詞の多い役ですが、長谷川さんは本当に自由に楽しそうに演じられていたんです。
僕自身はかなり緊張していて、現場で何があったか覚えてないことも多いのですが、長谷川さんの余裕のある大人の男のかっこよさやスマートさを間近で見られました。僕もあんな風になりたいです。

黒沢清監督の印象を教えてください。

黒沢監督は、めちゃくちゃかっこよかったです!
立ち振る舞いや存在自体が単純に格好いいのはもちろん、どういう思考回路なのか想像つかないからこその格好良さもありますね。ミステリアスな雰囲気というか。
印象的だったのは、自分が侵略者をどう表現するかまだ悩んでいた時、『ここで立ち止まって振り返ってじっと見つめて』と演出されたんです。それが映像になったらすごく違和感があったんです!
台詞や変わった動きがなくても、侵略者と人間の違いが一発でわかる。やっぱり黒澤監督はすごい方なんだと思いました。

『ギャップに混乱したことも』

高杉さんは複雑な役を演じることが多い印象があります。

そうですね、暗い役や複雑なバックボーンの多い傾向があるかもしれません。
だからこそ、春に公開した映画『ReLIFEリライフ』での明るい役は僕自身特殊に思えました。こんな明るい役を僕にやらせてもらえるんだ、と(笑)。ちょっと意外でした。
明るい役も暗い役も、どちらも演じていて楽しいです。普通の子の役が一番難しいです。

演じていて手応えを感じるのはどんな時ですか?

演技って、ゴールが見えないからこそ面白いと思うんです。自分で納得できる瞬間はあまりない。だからこそやりがいを感じます。
僕自身は今、演技が楽しくて幸せなんですが、楽しくなくなったらどうなるのかな?という不安はあります。
あと…現場で監督に何か言葉をかけてもらった時は、やっぱり嬉しいですね。

撮影が立て続けにあったと思いますが、役が混ざったりすることはなかったですか?

役は混ざらないのですが、自分の演技の組み立て方が混ざることはありました。
例えば、僕は舞台をやっているときは声が大きくなるんですけど(笑)、その次の作品が削る作業が多い役だとギャップに混乱したり。
初めての経験で、今までにない悩みだったので、自分でもビックリしました。でもそういう自分に気づけたことは大きな財産です。

『求められている以上のものを』

今年は今作『散歩する侵略者』をはじめ、6本もの映画公開ラッシュですね!

ありがたいですよね。全ての作品を公開館に行くことは中々難しいですが、やっぱり劇場で見ると感動もひとしおです。
映画は音や光など監督のスクリーンへのこだわりがつまっているはずなので、映画館で見るのが一番だな、と思います。

休みの日はどう過ごしていますか。

ずっと部屋にいます。どこか出かけたりはしないですね。家で漫画読んでゲームしてアニメを観ていたい。
ちなみに、最近だと『灼熱のカバディ』という漫画がお勧めですよ!カバディってそのイメージからか揶揄されちゃいがちですけど、めちゃくちゃアツい漫画なんです。僕も最初ちょっと斜めに見ていたんですけど、作品が面白すぎて、調べたり動画見たりしました。挑戦してみたいですが、身体つきがかなりしっかりしていないと難しそうなので、今やってみるとしたら社交ダンスですね。それも漫画の影響だったりします。

今後の目標や抱負を教えてください。

これまでは映画はあまり経験がなかったのですが、2016年は沢山の作品を撮影させてもらいました。それが今年公開になって、嬉しい反面、緊張や不安もあります。去年の僕を今変えることは絶対にできないので、去年の僕を今見て反省したり再発見したり。
“また一緒に仕事したい俳優”になりたくて、常にそのとき求められている以上のものを全力で出していきたいです。
自分自身が人としてきちんといて、全力で芝居して、また呼んでもらっての繰り返し。それをずっと続けていきたいですね。

(c)2017「散歩する侵略者」製作委員会
映画『散歩する侵略者』http://sanpo-movie.jp
監督:黒沢清
原作:前川知大「散歩する侵略者」
脚本:田中幸子 黒沢清 
出演:長澤まさみ 松田龍平 高杉真宙 恒松祐里 前田敦子 満島真之介 児嶋一哉 光石研 東出昌大 小泉今日子 笹野高史 長谷川博己
配給:松竹 日活 
2017年9月9日(土)より全国ロードショー
(c)2017「散歩する侵略者」製作委員会

高杉真宙 プロフィール
1996年生まれ、福岡県出身。
2009年舞台『エブリリトルシング09』で役者デビュー。『カルテット!』で映画初主演。『明日もきっと、おいしいご飯~銀のスプーン』で連続ドラマ初主演。
映画『ぼんとリンちゃん』で横浜映画祭最優秀新人賞を受賞。
2018年は主演映画『世界で一番長い写真』、映画『プリンシパル』が待機中。
2017年10月からはドラマ『セトウツミ』(TX系)でも主演を務める。

撮影:大村祐里子