××××の響きだけで強くなれ気がすることもある『ルーム』

あらすじ:7歳の時に変態やろうに誘拐され、その後7年間に渡って”部屋”で監禁されている女性、ジョイ(ブリー・ラーソン)は、”部屋”で生まれて以来、一度も外に出たことがない息子のジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)が5歳になった時に初めて”部屋”の外にある世界のことを話す。そして息子に一筋の希望を託して脱出の計画を立てるが…。

☆☆☆☆(星4つ)

少し前のことになるけど、先日行われたアカデミー賞は俳優部門20枠全てを白人が占めたことで議論が巻き起こったり、音楽部門にノミネートされていたアントニー・ハガティが授賞式でのパフォーマンスを「時間が足りないから」というひどい理由でカットされたり、といろいろあって個人的にアントニーのパフォーマンスを楽しみにしていた自分としてはかなり落胆していた。
でも今作を観てブリー・ラーソンが主演女優賞を受賞したのは問題の多かった今年のアカデミー賞における数少ないいい面だなとしみじみ感じた。もちろんレオナルド・ディカプリオ執念の受賞も最高だったけど。

ということで、いやはやブリー・ラーソンの感情のスケールを低いところから高いところまで満遍なく鳴らすような演技、名作「ショート・ターム」に引き続き素晴らしかった。

もちろん”部屋”からの脱出が物語の大きなピークであることは間違いないんだけど(圧巻です)、この映画の一番大事なところはやはり「その後」にある。

自由になったはずなのに、心ない世間や家族との埋められない溝に悩みながらもがくジョイと、初めて降り立った外の世界ですくすく成長するジャック。
目に映る全てが初めて見るものばかりのジャックだからこそ、なにげなく発せられる言葉ひとつにも不思議な重みがある。その重みをあくまでも自然に言葉に乗せて話すジェイコブ・トレンブレイくんの素晴らしい演技にも思わず心の涙を流した。「××××」というどこにでもある言葉がこんなに心に残る映画もそうない。

そうそう、原作小説は全てジャックの視点で描かれているそうだけど、映画ではそこにジョイの視点も加えつつ、脱出を望む母とは打って変って、その狭い空間しか知らないジャックの”部屋”に対する愛着の目線や、初めて出会うものばかりの外の世界を見つめる不安定な目線を見事に表現したカメラワークがすごくよかったことも書いておきたい。
アカデミー賞も革新的な表現ばかりじゃなくてこういう地味な仕事をもっと評価してもいいんじゃないのかな…ブツブツ…。

☆☆☆☆…こんなに絶賛してるのになぜ星4つなのか。それは「脱出したジャックを保護した女性警官がちょっと優秀すぎるのが気になったから」です。すごくかっこいいんですけどね。こちとら星5つをそんなにバンバン出すわけにはいかんのや、ホンマ堪忍やで…。

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ボクが7年間監禁されて救出されたら、一番に食べたいものは茅ヶ崎「サッポロ軒」の醤油ラーメン以外に考えられない。

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
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