あらすじ:俺がお前でお前が俺で、カルテルが自警団で自警団がカルテルで。
☆☆☆☆(星4つ)
ついこないだ「ボーダーライン」で麻薬カルテルものを観たと思ったら今度はこれです。「またかよ」という声もあるかと思うけど、仕方ない。これが世界を取り巻く切実な現実なんです。ヒーローたちは仲間割れを初め、麻薬カルテル映画が月に一本のペースで公開される狂った世界に我々は生きているのだ。
メキシコとの国境にほど近いアメリカの街エルパソでメキシコからの不法移民を取り締まろうと結成された自警団と、麻薬カルテルが支配するメキシコ中央部の街ミチョアカンで生まれた市民による反カルテル自警団。この2つの自警団の活動に密着し、両国の闇を暴く、みたいなコンセプトのドキュメンタリー映画。
2つの自警団はそれぞれ国も事情も違うものの、不条理な現実に怒った民衆が自ら立ち上がったという点でポジティブなパワーにあふれているし、特にミチョアカンの自警団は実際に集落を次々にカルテルから奪還して、戦力は倍増。リーダーは民衆の英雄として雑誌の表紙を飾るまでに成長する。
市民グループのまさかの大活躍に”世界一買収に弱い組織”メキシコ軍が規制に入るも、逆にその他の市民からの圧倒的な反対を受けてすごすごと帰っていく始末。このまま民衆の、民衆による、民衆のための浄化が為されればミチョアカンにも平和が訪れると誰もが期待に胸を膨らませていた。
でも物事はそううまくはいかなかったんですね。集団ってのは大きくなればなるほどいろんなやつらが現れるもので、徐々に攻撃的な連中や権力をかさに横暴をはたらく連中が目立ち始める。そして気づけば…。
このドキュメンタリーには自警団が悪漢から自らの街を取り戻していく輝かしい軌跡と、輝いていたはずのその光が徐々にバランスを失い、ずぶずぶと闇に呑み込まれていく姿が克明に記録れている。
っていうか撮ってるほうも自分たちが密着取材してる自警団が悪の組織に変貌していく事実に戸惑いまくっていて、事態がよく呑み込めないままカメラだけが回り続けている様が非常に恐ろしいし、メキシコ自警団のあまりの事態に途中からアメリカ自警団の話が完全に放置されてるのも作り手の焦燥感が伝わってきてリアルだ。「それどころじゃねぇ…!」と。
オープニングに登場するドラッグを製造する現地の人々。
最初、観客は彼らを見ても「メキシコにはよくあることだぜ」と大して気にも留めずに流してしまうけど、彼らが実は当の自警団の成れの果てだったと分かった時の衝撃は計り知れない。
☆☆☆☆…フィクションの世界でいくらがんばってもこの後味の悪さはなかなか得難い。最悪な気持ちで映画館を出るのがもうたまりません。
生活感あふれる写真で申し訳ないんですが、温かいご飯に海苔を散らして、地元でとれた釜揚げしらすをたっぷり乗せ、大葉を軽くあしらってからごま油と醤油をかけていただく「しらす丼」の麻薬的なおいしさ、とても抜け出せそうにない。
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
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