俺たちのゴンドリー・イズ・バック!『グッバイ、サマー』

☆☆☆☆(星4つ)

「エターナル・サンシャイン」「僕らのミライへ逆回転」、そしてもちろんミュージックビデオの概念を変えたと言っても過言ではない名作ビデオの数々…とミシェル・ゴンドリーの映像世界をこよなく愛するボクだけど、一方でゴンドリー先生はたまに、いやけっこうな割合で自分の趣味とか興味そのものみたいな作品を無邪気に世に放つ人なのでうまくハマれないことも多々ある。
急に地味なヒーロー「グリーン・ホーネット」をリメイクしてみたり、高校生が通学バスでわちゃわちゃしてるだけみたいなドキュメンタリー映画を撮ってみたり、なんかよくわかんないことを突然するのでファンとしても楽しみにしたり困惑したり忙しい。
でも今回の「グッバイ、サマー」は久しぶりに「誰もが観たかったゴンドリー映画」に仕上がってます。
みんな今回は心配しなくていいぞ!

学校では見た目のかわいさゆえに「チビ」だの「女の子」だのとからかわれ、家ではパンク音楽に目覚めた兄が大騒ぎし、悶々とした日々を14歳のダニエルくん(アンジュ・ダルジャン)と、同じ学校に転校してきた、これまた趣味の機械いじりのせいで初っ端から「ガソリン」と雑なあだ名をつけられたテオくん(テオフィル・バケ)。
周囲から浮いた二人はすぐに意気投合。そしてこのろくでもない日常から抜け出そうと、スクラップを集めて作った”移動式ログハウス”で夏休みの旅に出る。

少年たちが廃材で作り上げた移動式ログハウスは花で装飾された見た目といい、警察に怪しまれないように一瞬で「路上に建つ家」に変わる細工といい、「まさにゴンドリー印!」なイマジネーションあふれる素晴らしい一品だけど、逆にそれ以外はお得意の独特な世界観はあまり前面に出ていなくて、なによりも主人公の少年コンビのみずみずしさとリアルな存在感により心を奪われる。
前作「ムード・インディゴ」から一転してオドレイ・トトゥが”普通のお母さん”として出てくるのもいい。そのへんにいそうな登場人物たちがせっせと生きてるからこそ、ふわふわした夢のゴンドリーワールドも輝きを増すというものだ。

うっかり子どもが観たら来年の夏休みはこぞって家出すること間違いなしの最高のロードムービー。いや、観た後で会社を辞めてふらふらと旅に出てしまうかもしれないから大人でもあぶないな。

☆☆☆☆…ビターな後味も心に沁みるけど、そういえばゴンドリー映画ってわりとそういう切なめの終わり方が多い気がしますね。


夏の終わりに新潟県燕三条の「三条楽音祭」へ。大人なので動くログハウスでなくちゃんと車で行ったけど、三条式もつ煮は玉ねぎと海苔が入ったあっさり醤油味でおいしかった。

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
https://twitter.com/odkysyk