マドリードたられば母娘『ジュリエッタ』

☆☆☆☆(星4つ)

スペインを代表する巨匠ペドロ・アルモドバル先生の新作は、代表作である「オール・アバウト・マイ・マザー」をはじめ先生が度々テーマにしてきた「母と娘」を再び取り上げた意欲作。
前作の「アイム・ソー・エキサイティング」は久々のコメディだったからか、最初から最後までエグめのギャグ連発で観てるほうも疲れるような作品だったけど、今回はまさにアルモドバル節さく裂。鮮やかな色彩が画面に映える美しい仕上がり。これだよ、これ。

マドリードで暮らすジュリエッタ(エマ・スアレス)は美しく洗練された中年女性。作家の恋人と優雅な生活を送り、今は二人でポルトガルに移住するための準備に勤しむ日々。
しかし彼女には「愛する娘の突然の失踪」という恋人にも打ち明けられない苦悩の過去があった。
そしてある日ふとしたことから娘の消息を知ったジュリエッタは全てを捨て、行方知れずの娘に宛てた日記を書き始める。
彼女が綴る、心の奥深くに封印された過去とは…。

ノーベル文学賞作家アリス・マンローの短編集「Runaway」に収録された3本の短編を基に作られているだけあって、挿入されるエピソードの数がすごく多い。
「一組の母娘の半生にこんなにドラマがあるもんかね」と思うくらいてんこ盛りで、しかもほとんどが不幸な話。このへんの詰め込み方からして賛否が分かれるような気もしないでもない。
さらに全体的に暗いストーリーを補うように時には往年のメロドラマ的だったり、時にはサスペンスタッチの映像だったり、画面の情報量も多い。美しいながらも確かに全体的にコッテリしてる。

愛する人との離別のような大きいものから、お父さんの浮気みたいな生活密着型のものまで、数々の悲劇がジュリエッタ(とその周囲の人々)を襲うわけだけど、そのひとつひとつは日常のささいなすれ違いから生まれていて、そのへんのさりげなさもあって(個人的には)不思議とあまりくどいとは感じなかった。
そもそも不幸の嵐みたいな展開が逆におかしみを生んじゃうようなところってありますよね?ボクにはあります。まぁ劇場では誰一人笑ってなかったんだけど。

アドリアーナ・ウガルテ演じる若く活発な若きジュリエッタ、エマ・スアレスが演じる中年になったジュリエッタ、どちらのジュリエッタもすごくよくてこの二人が入れ替わる演出は見事の一言。メロドラマ的エピソードの合間に挟まれる印象的なイメージといい、「アルモドバルやっぱすげぇ」と唸らされる一本です。

☆☆☆☆…本国では公開直前にリークれたパナマ文書にアルモドバルがばっちり載っちゃってるスキャンダルの影響で興行成績が振るわなかったみたいだけど、ボクはすごく好き。そんなのどうだっていいじゃないですか。


スペインに関係する食べ物が食べられなかったのでマイベストオブパエリアの写真でも載せておこう。バルセロナにて(ドヤァ)

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
https://twitter.com/odkysyk