『セールスマン』『20センチュリー・ウーマン』『パーソナル・ショッパー』

今週は並み居る大作の陰で地味ながら印象に残った3本をまとめてお送りします。どうか成仏してください。

「セールスマン」☆☆☆(星3つ)
イランが誇るアスガー・ファルハディ監督の最新作。引っ越し先で何者かに暴行された妻とその犯人を捜す夫の関係が事件をきっかけに徐々に綻んでいく様子と、夫婦が参加する劇団による戯曲「セールスマンの死」が同時に進行し、最後には虚構と現実が重なって…いくのかと思いきや、その絡みはそれほどピンとこなかった。
それでもファルハディ監督の、善悪の境界線を突きつけるような巧みな演出は健在。絶妙にいやらしい状況を作るのが相変わらずうまくて、「いや、警察行けよ」で済ませてしまいたいところを「なぜ済ませられないのか」という疑問にたどり着かざるを得ない。どれだけぼんやり観てても観客に思考を放棄させない強い説得力がある。

「20センチュリー・ウーマン」☆☆☆☆(星4つ)
「人生はビギナーズ」で70歳にして家族にゲイであることを告白した自分のお父さんを映画化したマイク・ミルズが今度はお母さんを映画化。晩年の人生を謳歌しまくったお父さんも痛快だったけど、今回のお母さんも自らの
生き方に誇りを持つとびきりクールな女性だった。それだけにマイク・ミルズが自らを投影した主人公は多感なティーンネイジャーの時期をお母さんに振り回され(時には振り回し)ながら過ごすことになるんだけど、これはなかなか大変そうだった。そんなお母さんを過度に美化せずに面倒なところもじっくり描かれているのが徳の高いところだ。
だいたい近所のお姉さん(エル・ファニング)が突然部屋にやってきて添い寝させられたり、居候のサブカル女子(グレタ・ガーウィグ)に夜中にクラブに連れ出されたりしてタダですむわけがないんだ。実にうらやまし…じゃなくてけしからんことですよ。
若者が新しい価値観に出会う瞬間の瑞々しさと、実際にハードコアパンクのレコードを聴いたりしてなんとか理解しようと首を突っ込みまくるお母さんのドタバタがとにかく愛おしい。

「パーソナル・ショッパー」☆☆(星2)
今年度の「なんだこれ映画大賞」入賞まちがいなしの不思議な映画。セレブのための買い物係(=パーソナル・ショッパー)を生業とするクリステン・スチュワートが依頼人の買い物ばかりしてるうちに自分と他人の境目がわからなくなって…みたいな話だと思ってたら(実際公式HPにもそんなようなことが書いてある)とんでもない。クリステン・スチュワートが開始2分で「霊と交信してみないと」とか言い出した時点で手遅れだった。この世の物質主義とあの世の不条理をiPhoneのテキストメッセージが繋ぐ、おかしな映画。どことなく村上春樹の小説みたいな雰囲気がある(と言っておけば間違いない、みたいなことは全く考えてません)。


ミシュランに載ったという凝ったラーメン。おいしかったけど、食べてる間に弟子がずっと師匠に怒られてて、ミシュランはそういうところももっと考慮してほしい。

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
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