超絶暴力で描く非暴力の凄み『ハクソー・リッジ』

☆☆☆☆(星4つ)

数々の暴行、暴言、アルコール関係のトラブルですっかり表舞台から遠ざかっていたメル・ギブソン氏。イメージは完全に失墜し、たまに出る映画では悪役ばかり…。
氏の代表作「リーサル・ウェポン」シリーズを心から愛するボクとしては胸を痛めるばかりだったけど、そのメルギブさんが10年ぶりに監督として帰ってきた。しかも戦争映画で。

監督として輝かしい経歴を残す一方、その内容の過激さにも定評があるだけに、なんというか、いやな予感がすごい。
といっても今回は宗教上の理由で武器を持たずに衛生兵として従軍し、戦場で負傷した仲間を75人も助けたという実在の人物デズモンド・ドスを描いた話なので、「もしかしたら救助メインでそんなにひどいことにはならないんじゃ…」などと甘いことを考えていたけど、結果としては、えーっ、今回もひどかったです(賞賛)。

人体の破壊に並々ならぬ関心を持っているメルギブなので今回も見事に破裂、さく裂、大爆発のオンパレード。
前途あふれる有望な若者たちが頭を撃ち抜かれ、手りゅう弾で吹っ飛び、銃剣で突き刺されるさまを執拗に描写するメルギブは正直ちょっと頭がおかしいんだと思うけど、監督として腕前は相変わらずバツグン。
敵も味方もないような混沌とした戦場の有様には気が狂いそうな臨場感がある。

そんな猛烈な暴力の嵐のなかで頑なにに武器をとらなかったデズモンドを演じたアンドリュー・ガーフィールドの狂気に近い信念をとことん貫く演技も見事だった。
初登場~奥さんとのなれ初めのあたりでもう狂気が漏れだしてたけど、その「尋常じゃなさ」が、今作が「戦場で人を助けまくった実話」というただの「いい映画」に留まらない迫力を獲得した大きな要因であることは間違いない。
まぁ彼が助けた仲間はその後もめちゃくちゃに銃を撃って敵を殺しまくっていてそのへんは自分の中でどう処理してるんだろうと思わないでもないけど、そこは「わけのわからないことを絶叫しながら襲ってくる蛮族なんか殺すしかないだろ」というメルギブの思想が存分に発揮されてるにちがいない。日本兵、「バカヤロー!」と「シュリュウダンダー!」しか言ってなかったし。

10年ぶりのカムバック作でも相変わらずに極端な価値観のまま映画を撮って、そしてそれがしっかりおもしろい。
この10年の間にハリウッドでは様々なコレクトネス精神が発達して、それ自体はいいことなんだと思うけど、たまにはこういう人がいてもいいじゃないかとも思う。おかえりなさい!

☆☆☆☆…PRイベントでダチョウ倶楽部のみなさんがワイワイやってたけど、この映画を観た(観たんだと思う)
後なのにすごいなと感心した。


映画の中の日本は魔界みたいな扱いだったけど、こんな美しさもあるんですよ。

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
https://twitter.com/odkysyk