悔しいけど傑作ですよ『ノクターナル・アニマルズ』

【あらすじ】
アートギャラリーを営むスーザンは経済的には恵まれながらもどこか満たされない生活を送っていた。そこに離婚した元夫から自作の小説「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」が送られてくる。
スーザンに捧げられたその内容は「男が夜の荒野で暴漢に襲われ家族を失う」というとんでもないもので、「こんなの捧げられても…」と困惑しつつも次第に引き込まれていくスーザン。元夫はなぜこんな小説を送ってきたのか…!

グッチとイブ・サンローランのクリエイティブデザイナー兼任というとんでもない経歴を持ち、現在は自らのブランドを率いるトム・フォード氏が「シングルマン」で衝撃の映画監督デビューを果たしてから早数年…。
ファッションと映画、二足のわらじを華麗に履きこなす彼に唇を噛みしめた業界人がどれほどいたことかと思うけど、そんな妬み、嫉みをものともせず順調に2作目が出て、しかもこれがしっかり傑作なんだからまいっちゃいますよね。

いかにもデヴィッド・リンチ的に奇妙なオープニングから空虚なセレブ的生活が続く前半では「はいはい、よくある感じね」とタカをくくっていたけど、「夜の獣たち」の世界が始まるとそれまでと180度異なるハードな展開に引きずりこまれる。この転換はちょっとすごかったですね。荒野のど真ん中でヤバいやつらに襲われる恐怖と絶望…この緊張感はそこらのスリラー映画の比じゃなかった。
ただのオシャレ野郎と侮るなかれ、トム氏は相当な修羅場を潜ってるにちがいない。学校でめちゃくちゃにカツアゲされたとかそういう暗い過去があるのかもしれない。

現実と小説が交差する不条理映画に見えて実際にはかなり分かりやすい「親切なデヴィッド・リンチ」的作風も好ましいし、なによりそこらの映画オタクが束になっても敵わない才能を、ファッションデザイナーが軽々披露しているところが腹立たし…じゃなくて、なんていうか、かっこいいなと思うわけです。
「次くらいに一回めちゃくちゃコケてほしい」なんて全然思ってないですよホント。

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
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