調律世界のブラックジャック『ピアノのムシ』

漫画作品のジャンルのひとつ「ブラックジャックもの」というのがあります。
ブラックジャックというのは言わずと知れたあの天才闇医師のことですが、ああいったピカレスク(悪党)が主人公の作品が、どのジャンルにもひっそりと存在します。
彼らは大抵、腕は一流だけど経歴を含めどこかにキズがあり、真正面のヒーローではないけど表舞台の一流よりも一流。
料理漫画だったらザ・シェフとか。
美術?漫画だったらギャラリー・フェイクとか。
今回は、ピアニスト!…ではなく、ピアノの調律師としてのブラックジャックです。

荒川三喜夫/芳文社コミックス

性格は悪いが腕は超一流…、超一流という言葉がちょっと追いつかないほどの腕を持つ主人公。
反響音で家の歪み的な欠陥を見つけたり、CD音源から揺らぎを聴き分けたり、とにかく耳がいい。
というかいいというレベルを超えてる。
こんな人いる?逆に普通の生活大変じゃない?と思ってしまう。
犬ちょっと手前。実際、犬がピアノの音に吠えるからその原因を探って解決という話もあります。

そんな凄まじい聴力を持つこの主人公、とにかく口が悪いです。
口は悪いけど本当はいい人、、、かも怪しい。
ブラックジャックものの中でも、根性はかなり悪い方だと思う。
よくあるツンデレなだけでしょ?と思うじゃないですか。そんなことないです。普通に性格悪いです。後輩のミスをしつこくチクチク言うし、ライバルや部下はもちろん自分に依頼してきたお客様にまで悪態どころか罵詈雑言だし、もちろん大体お酒を飲んでいる。
でもいいんです。天才だから。

実際(そこまで詳しくないですが)調律師さんもピンキリなんです。
その人によって音の固さや伸びがバラバラで、中には明らかに音程が狂ったまま終わらせる方もいます。
この主人公の調律がどんな感じかはわかりませんが、彼の調律したピアノを名手が弾けば、なんだか素晴らしい壮大な景色が出てきます。星空とか草原とか。(このあたりはライトな料理漫画に近いものがあるかもしれない。)

という風に、ピアノにまつわるお話がメインに進んでいくんですが、ピアノの構造や歴史ってそこまできちんと調べることもないので、中々勉強になります。
環境でここまで左右される楽器なんだと。
他の楽器と違って押せば鳴るというか、どこに行ってもどのピアノを弾いても(最低限の調律さえしていれば)割と当たり前のようにドレミの音が鳴るような認識ですよね。
でもこの漫画では、やたら音が狂うピアノがバンバン出てきます。もちろんそれは劣悪な環境下のものが多いんですけど。野外とか。湿気がすごいとか。中にはステージの照明で音が狂っていったり(最早ただの欠陥品じゃないか)、調律中に本体が割れるとか割れないとか…。
また、大体調律中は皆さんお一人での作業が多いので、調律師の仕事って傍で見られるものではないし、そういう意味でも面白い。
ハンマーをくいっと回すの、かっこいい。

そんな感じで読み進めるとどんどん読めてしまうわけですが、他の同系統作品と比べると、ピノ子的存在がちょっと弱いところがネック。
ピノ子(あるいはピノ子的存在)は癒しであり狂言回しであり時々ヒントを与える存在でなければいけないんだけど、この作品はなんだか主人公のジャマしかしてない気がする。
最早、このキャラ女性の必要ある…?
途中で出てくるお嬢様キャラがいるんですが、彼女の方が適任なような気もする。

ピアノの漫画は数多くあれど、殆どがピアニストの話だと思います。
調律師って中々何をしているか謎な職業だと思うので、是非読んでみてください。(まだ7巻しか出ていないうちに!)
そしてもしあなたがピアノをお持ちなら、なんとなく調音に耳を傾けてみては。

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調律師といえば静岡なイメージがあります。多分某社と某社の学校があるからかな?ということで全然関係ないけど富士山。でもこれ山梨側です。すいません。

やまなか(仮)
貯蓄もないのに漫画をジャケ買いしては一喜一憂しているどうしようもない人間。
狭く浅く生きています。