映画『望郷』 菊地健雄監督インタビュー

『望郷』は短編集ですが、中でもこの「夢の国」「光の航路」の2本を選んだ理由を教えてください。

理由としての一番大きな共通項は、どちらも親子の話だということです。そして、どちらも教師という職業が出てくることも共通しています。その辺りのことが手がかりになりました。
この2本をどうやって1つの世界観で成立させるかは、僕たちも一番悩んだ部分です。原作のテーマ性をどう映画化するかを考え、話ごとの共通項をいくつかつなぎ合わせて映画独自のエピソードを作ることで、1つの作品として完成しました。
小学校からの同級生がずっと一緒に成長していくって、中々確率的に難しいと思うんです。でも、時々会って近況を語り合うことはある。それを覗き見るような映画になることを目指しました。
原作は6本全てにおいて白綱島という島が舞台ですが、この「夢の国」「光の航路」には、それぞれ「ドリームランド」と「進水式」という、主人公たちにとって葛藤の根本的な部分に象徴的な場所や出来事が置かれていることも大きな特徴ですね。

奇しくも母娘/父子の話が対になっていました。

親子でも同性同士の距離感みたいなものがありますよね。例えば、僕は妹がいるのですが、僕から見た妹と母親の関係って、やっぱり息子である僕と母親の関係とちょっと違う気がするんですよ。逆に妹から見たら、息子である僕と父親の関係って自分とは違うな、と思われてるんじゃないでしょうか。
このことは僕の家族だけに限らず、どこの家庭でもそれぞれにあるのだと思います。一概に一般化できることではないけど、「夢の国」「光の航路」は見事に対比できる構造だったので、母と娘、父と息子の微妙なニュアンスの違いを狙いました。

“田舎”特有のじめっとした閉塞感、束縛感が本当にリアルでした。

僕の監督デビュー作が、まさに自分の故郷を題材にしたものなんですが、今回の原作『望郷』も、ある部分では共通点があるなと思いました。自分の中での一貫したテーマのように思えて入りやすかったですね。
自分が田舎育ちなので、田舎特有の距離感など、どこかでずっと引っ掛かりを感じているんだと思います。それが無意識に作品の中に現れているのかもしれません(笑)。
画面の色調や光の変化はかなり意識しましたね。どう前向きに捉えても彩り華やかな物語ではないので、撮影の佐々木さんと相談しながら決めていきました。最終的に見える島の風景が主人公たちの心情と共にどう変化するか、そこを重要視しました。
映画は台詞や表情に加えて、視覚的効果によって観客に伝えられる部分が大きいので、1つ1つの舞台立てにはすごく拘りました。それによって物の見方が変化したら面白いなと。

今回の映画化にあたって、一番重きを置いたのはどういうところですか?

早い段階でこだわっていたのは、“原作のモデルになった因島で撮影する”ということです。しまなみ海道で結ばれた島々って、天気や光の当たり方で全く印象が違って見えるんです。それを見て育った人たちのストーリーを大事にしたいと思いました。
それは僕たちスタッフだけでなく、役者さんたちにとってもすごく重要なことだったと思います。その場での光や空気を感じながら演じることで、結果としてみなさんのお芝居にとても影響を与えた気がしますし、僕たちスタッフもその影響を感じながらその場の状況で生まれてくるお芝居を大切に撮影しようと心掛けました。
“島”というのが大きいと思うんです。例えば、僕の地元の栃木で撮影することになっても、もちろん成立したと思います。でも舞台が島であることで、物理的な距離、つまり地続きじゃない場所という事実がとても重要な要素になりました。

原作ありとなしでは、やはり制作プロセスや意識の配り方が違いますか?

もちろん原作とオリジナルは大前提が違うので、違うところはもちろんありますが、本質的に映画を作るという作業自体に大きな違いはないですね。自分の意識の問題もありますが。
僕自身は、初の原作ものが湊かなえさんの原作だというプレッシャーはありました。映像化された作品も名作が多いですからね。でもそのぶん、やりがいはありました。
先ほども言いましたが、僕自身は映画デビューで田舎の故郷の狭さや田舎のあるあるみたいなものを題材にして描いたんですね。そんな自分が、たまたま湊かなえさんが故郷について書いた作品を映像化させてもらえることになったというのは、何か運命めいたものを感じました。
一方で、テーマが一緒でもやはり切り口が全然違いますから、自分とは違う発想からスタートするという、とても刺激的な経験になりました。

今作では、いわゆるどんでん返しやショッキングな煽りはほぼなかった印象です。

湊かなえさんの作品の魅力って、どの作品も人間が誰しも持っている裏側の部分をきちんと描いてることだと思うのです。もちろん、『望郷』でもそれはきちんと描かれています。でも、他の作品と比べたら比率が少ないかもしれません。
今作『望郷』は、湊さんご自身の成長の記憶の痕跡や体験が色濃く盛り込まれているので、湊さんの他の作品とは手触りが少し違うんです。湊さんとお話ししたときに、進水式や修学旅行の思い出は実体験と仰ってました。
僕たちスタッフも、湊さんの想いと原作にある人間ドラマの最良の部分を崩さず、上手く映像化していくことをずっと意識していました。

最後に、改めて映画『望郷』の見所を教えてください。

『望郷』は“役者さんの力”がとても重要な作品になったと思います。
役者さんの演技、表情が素晴らしいから、その次に繋がる風景が全然違うものに見えたりします。舞台である島の風景とそこから導き出される芝居、スタッフの素晴らしい技術によって切り取られた映像と音。特に終盤はそれらが全部合わさって、心が動きます。
監督をしていると、作品を編集や仕上げの段階でひたすら何度も繰り返し見返すので、完成してもあまり感情が揺れなくなってしまうのですが、この作品は何度見ても泣きそうになります。それはやっぱり役者さんの力だと思うし、それを再発見できたことは個人的にはとても大きな財産になりました。
珍しく帰った田舎で偶然にも同級生に再会し、自分が一緒にいなかった彼らとの空白の時間を埋められるような感覚を味わえる作品になったと思います。生まれ育った場所を、これまでとは違う角度で見たら面白いかもしれない。そう思ってもらえたら、監督冥利につきますね。

 

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映画『望郷』 http://bokyo.jp/
『告白』『白ゆき姫殺人事件』「リバース」など、ヒット連発のミステリー作家・湊かなえさんの累計・50万部突破のベストセラー小説「望郷」が、主演に貫地谷しほりと大東駿介を迎え、完全映画化が決定!2017年9月16日(土)より新宿武蔵野館にて公開。『ディアーディアー』(第39回モントリオール世界映画祭正式出品)、『ハローグッバイ』(第29回東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門正式出品)などを手掛ける菊地健雄が監督を務め、出演陣には木村多江、緒形直人ら、実力派俳優が名を連ね、親子の感動ミステリーが誕生しました。
出演:貫地谷しほり 大東駿介 ・ 木村多江 緒形直人 他
原作:湊かなえ「夢の国」「光の航路」(『望郷』文春文庫 所収)
監督:菊地健雄 脚本:杉原憲明
主題歌:moumoon「光の影」(avex trax)
制作・配給:エイベックス・デジタル
2017年9月16日(土)新宿武蔵野館ほか全国拡大上映


菊地健雄
1978年⽣まれ、栃⽊県⾜利市出⾝
明治⼤学卒業後、映画美学校5期⾼等科卒。映画美学校時代から瀬々敬久監督に師事。
助監督としての参加作品は『64』(瀬々敬久監督)、『岸辺の旅』(⿊沢清監督)など多数。15年『ディアーディアー』にて⻑編映画を初監督。同作は第39回モントリオール世界映画祭に正式出品され、フランクフルト第16回ニッポン・コネクションではニッポン・ヴィジョンズ審査員賞を受賞。⻑編2作⽬となる『ハローグッバイ』は第29回東京国際映画祭・⽇本映画スプラッシュ部⾨に正式出品され、全国順次公開中。またAmazonプライム・ビデオにて連続ドラマ『東京アリス』(数話監督)が好評配信中。本作は⾃⾝⻑編として3作⽬の監督作品となる。

撮影:大村祐里子