映画『エキストランド』 坂下雄一郎監督インタビュー

制作事情満載(?)の映画『エキストランド』ですが、実体験に基づいた作品ですか?

基本的に今作の原案は、プロデューサー(田中雄之さん)によるものです。脚本を書く段階で、プロデューサーが色んなフィルムコミッションに取材して、様々な過去の事件を集めて、それを組み合わせています。僕は撮影上に関する思いや経験をちょこっと混ぜています。
映画で起こる出来事の半分くらいは事実なんですよ。残りの半分は脚色ですが(笑)。全部一箇所で起こったわけではなく、バラバラの場所での出来事ですね。小さな火種を大きくしてあります。
僕もそうですが、どうしても撮影中は色んな事情を忘れがちになってしまうんですよね…撮影のためだったら、という言葉で何でも行けるような気がしてきちゃうんです。
とはいえ、あのキャラクターの中だと、僕自身は戸次さん演じる監督の立場が一番近いですね。たとえ「もうちょっとこうだといいな」と思っても言えないですし。

『抹殺したほうがいい映画』は笑ってしまいました。

実際はそんなこと思ってないですよ!(笑) 少なくとも今は全くありません。
でも、正直に言えば、学生時代はそういう気持ちはゼロじゃなかったかもしれません。みんな日々映画が作りたくて悶々としてるし、相当尖ってますからね…。
まだ何者でもない学生が持っている、どこにもぶつけられない恨み辛みを思い出しながら書いた場面です。

“東京から来る人を喜ぶ田舎の人”という構図が、前作から引き継がれている気がします。

たまたま近い題材が2作で続いてしまいましたが、自分では意識してないです。
僕自身も地方出身者で、東京の友人にも同じようなことを言われますが、田舎に偏見があるわけじゃないんですよ。
むしろ今作の問題は東京・田舎の問題ではなく、パッケージが良ければ中身は何でもいいのか?というところですからね。

メインの方々のキャスティングが見事でした。

最初に決まったのは戸次さんでした。プロデューサーが以前作った作品で戸次さんに出ていただいてて、それも映画監督の役で。今回は設定から全く違う話ですが、また戸次さんに監督役をお願いしたかったんです。
吉沢さんは映画『アイアムアヒーロー』で、ああいう役もできちゃう方なんだなという印象を受け、お願いしました。今回かなり強烈な役ですが、憎まれ役をしっかり演じ切ってくださいました。
前野さんは元々大学の先輩なんです。しかも僕の中では監督としての先輩だったのですが、現場で役や作品について色々ディスカッションがあって…すっかり役者になられたなあと。感慨深いですね。
はんにゃの金田さんも、見事なバランスでしたね。調子に乗っちゃうところけど、どこか憎めない感じを怖いくらい絶妙にやってくださいました。金田さんは映画『私の優しくない先輩』で素敵だなと思ったのがきっかけです。

地元の人たちのキャスティングはどういう風に行われたんですか?

今回はロケ地の長野県でオーディションをやりました。冒頭の全国各地のフィルムコミッションとして電話対応で出て来られる方々や、地元の商店街や商工会の方々は、半分くらいそのオーディションで決まった方々です。
オーディションとエキストラの募集はまたやり方が違うんですけど、そういったところもちょっと作品とリンクしてます。

監督の作品には独特のテンポがありますが、どういうものに影響を受けたんでしょうか。

25歳で映画監督を目指して上京したんで、将来のことやどういうものを撮ればいいかずっと悩みましたね。自分の感性だけに頼ってちゃいけないんじゃないか、割り切りも必用なんじゃないかと。映画監督もある意味スキマ産業でもあるので、周りをちゃんと見て、自分がどういうものを撮らないといけないのかを計画的に考えなきゃいけない気がしていました。
映画祭に作品を出して評価してもらって、お仕事をもらうようになって…というステップを目指した時に、若い感性の他の監督たちとは逆を狙いました。消極的な考えです(笑)。
僕自身の初期衝動みたいなものは学生時代に使い果たした気がしたんですよ。だからこそ考えて自分の作風を練っていかないといけなかった。
今も、自分の感性が暴走するようなことはないですね。映画ってみんなで作るものですから、自分の場合はそういうことをしてもあんまり上手くいかないです。みんなで納得しながら進めていくのが大事なんじゃないかと。

改めて今作『エキストランド』の見所を教えてください。

撮っている時から、”バランスの取れた作品にする必要はない”という思いがありました。何か尖っている部分があってもいいと。吉沢さんのキャラクターがイキイキしていたり、毒があったり、一点だけでも作品を支えるものがあればいいなと。
ここだけの話ですが、2週間くらいの撮影期間中、12日間雨だったんですよ(笑)。それを感じさせないようになっているはずです。コッソリそこもチェックしてもらえたら嬉しいです。渋谷のシーンはどうしようもなかったですけどね(笑)。
沢山の方に見てもらいたいです。中でも、何かしらの刺激的なものを求めている方には是非お勧めします!
また、次回作に2018年1月公開予定の映画『ピンカートンに会いに行く』があります。『東京ウィンドオーケストラ』の松竹ブロードキャスティングさんにお声がけいただいて、撮りました。20年前にアイドルをやっていた女性が、昔の仲間に会いにいく物語です。
作品を見てもらってまた声をかけてもらって、そうして繋がっていくのはやっぱり嬉しいですね。作品ごとに流れは違いますが、一つ一つが巡り合わせの結果だなと思います。でも全部が繋がっているような…自分ではわからない何かに背中を押してもらえてる感じです。

 

映画『エキストランド』 http://extrand.jp/
坂下雄一郎監督(『東京ウィンドオーケストラ』)最新作。吉沢悠、戸次重幸、前野朋哉、金田哲(はんにゃ)ら、多彩なキャストが集結!
約2年半をかけて、13に及ぶ全国のフィルムコミッションへの取材を敢行し、完全オリジナル脚本を執筆。地方創生が謳われる時代に対し鋭い風刺やユーモアを交えつつ、映画製作やモノ作りをするうえで大切なことは何なのかというメッセージを盛り込んだ意欲作。
撮影は、関東近郊及び、信州上田フィルムコミッションの全面協力のもと実施。さらに上田では延べ300名以上に及ぶ市民エキストラが協力し、完成。映像制作プロダクション「株式会社コトプロダクション」第一回長編製作映画。


坂下雄一郎
1986年、広島県生まれ。大阪芸術大学卒業後、東京藝術大学大学院映像研究科に入学。
修了制作として監督した『神奈川芸術大学映像学科研究室』がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2013長編部門にて「審査員特別賞」を受賞。「SKIPシティ Dシネマプロジェクト」に選出され、一般公開へ至る。2017年、松竹ブロードキャスティングオリジナル映画製作プロジェクト第3弾『東京ウィンドオーケストラ』にて商業デビュー。次回作『ピンカートンに会いに行く』が2018年1月20日公開予定。

撮影:大村祐里子