映画『今夜、ロマンス劇場で』稲葉直人プロデューサー&武内英樹監督 対談

映画『今夜、ロマンス劇場で』は、稲葉さんが9年ほど前から温めていた作品だとか。

稲葉(以下、稲) 温めすぎじゃないかなっていうくらいの年月ですよね(笑)でも、どうしてもやりたかったんです、この映画!
武内(以下、武) 一緒に『テルマエ・ロマエ』をやっているころに、稲葉プロデューサーから「綾瀬さんで、こういう作品をやりたいんですよね」という話を聞いていたのですが、本格的に動き出したのは16年の春かな。プロットをはじめて読んだとき、後半、涙があふれて来て、これはすごく良い映画になるだろうと、ワクワクしました。

綾瀬さん演じる美雪の、“美しいけれど、性格はかなりのじゃじゃ馬”というギャップが非常に魅力的でした。

武 前半、美雪は自分に触れられては困るという事情から、かなり乱暴に健司(坂口健太郎)をあしらうわけですが、それがお客様にどう見えるのか計算するのが大変で、撮影するときはかなり気を使いました。
稲 逆に健司は、美雪にとことん振り回される役回り。でも振り回される姿がチャーミングで、純朴な青年を演じられる俳優というのがなかなかいなかったんです。ずっと探していたとき、当時、俳優になって間もない坂口さんの映画『ヒロイン失格』を観て、「ぴったりな人が、ココにいた!」と。9年間、実は坂口健太郎を待っていた……っていうと、カッコよくないですか?
武 ははは。ちょっと盛ってるな(笑)

稲葉さん、武内さん、そして脚本の宇山佳佑さんの三人で作品の軸を作り上げるにあたり、大切にしたことは?

稲 僕としては「知名度がないオリジナルだからこそ、ベストセラー原作の映画よりも面白くなきゃいけない」と思っていました。前半は笑えて、後半は一気に切ない気持ちで感情を揺さぶられる“一粒で二度おいしいエンターテイメント”を、徹底的にお客様の目線に立って作りたいなと。脚本の宇山さんとは1年以上かけて脚本を練っていきました。深夜のファミレスで、おじさん2人が愛を語り合うという(笑)それと僕は映画好きなので、押しつけがましくなく、映画愛を感じさせるものにしたいな、というのを大事にしました。今回は入口がファンタジーだったので、監督は演出が大変でしたよね?
武 そうなんですよ。一歩踏み外すと、綾瀬さんがまったく共感を得られないキャラクターにもなりかねない。お客さんの目線に立ち戻っては「どう見えるかな」と想像しながら作ったので、結構疲れました(笑)また、この映画の舞台となった昭和35年は、日本が高度成長期のさなかで非常に活気があった時代です。今もやや停滞ムードが続く現代人から見て、ノスタルジックな憧れを抱けるような舞台になればと、当時の空気をこの作品に散りばめていきました。また、今回は色がテーマの作品でもあったので、ロマンス劇場などのセットからエキストラの衣装まで、カラフルでレトロな風合いにこだわりましたね。この時代に合わせた美術を集めると、鮮やかな色が付いているものがなかなかないんです。なのでスタッフには鮮やかな色味の配色を意識するようにお願いして、綾瀬さんの衣装合わせも、何度も行いました。

魅力的なキャストや優れたスタッフワークを経て、映画が作り上げられる過程を目の当たりにし、どう感じましたか。

稲 やはり嬉しかったです。でもその一方で、作品作りの言いだしっぺには、多くの人を巻き込むという責任も生じます。とくに今回はオリジナルなので、なおさら…。そういう意味では、完成するまでは、いつもより不安度は大きかったかもしれませんね。
武 僕もずっと不安でした。先ほども言ったように、綾瀬さんがお客さんにどう見えるのかというのが心配で、撮るたびに前後の展開を思い出して、細かくつじつまを合わせていく作業でした。
稲 僕らが悩んだのは、とにかく前半ですよね。どうやったら、このファンタジーの世界に自然に引き込めるか。
武 稲葉プロデューサーは「作品の入り口で、綾瀬さんのキャラクターが受け入れられなければ終わりだ」という話を、ずっとしていましたね。
稲 ええ。二人で何度も話し合い、確認し合って、石橋を叩いて渡るように作業を進めていきました。それは結果、うまくいったと思います。

脇を固める俳優陣の魅力も、光っていました!

武 前半のコメディを成立させるために、俊藤龍之介(北村一輝)というキャラクターは活きましたね。彼を動かすことによって、物語にうねりを作り出せたのは大きかったと思います。
稲 そして、ただのコメディリリーフでは終わらないと。俊藤は、監督がノリにノッて撮っていたキャラクターだったんですよ。北村さんも、ノリにノッて演じられていました。
武 「このキャラクター、ものすごく好きだ」って言ってましたもん(笑)
稲 僕が「監督らしい演出だな」と思ったのは、俊藤の後ろにいる付き人たち。台本では5人とは書いていなかったし、オーディションでも「5人も要ります?」って聞いていたんですが(笑)、出来上がったモノを見て、「必要だったな」と思いました。あの5人だけでも、それぞれが際立っていて観ていて面白いですから。
武 彼らの存在があることで、俊藤のスター性がより伝わると思ったんですよね。こうやって振り返ると、苦しみながらも、楽しい現場だったなと思います。
稲 現場によっては、台本に対してスタッフから反対意見をされることもあるのですが、今回は本当に気に入ってやってくださる人がすごく多かったですね。クランクアップ間際に、こっそり「実は私、台本読んだだけで泣いちゃって……」って言われたりして、「それ、早く言ってくださいよ!」と思っていました(笑)
武 ひとつの台本に対して、すごく大きなエネルギーが集まっているなと感じると、勇気づけられましたね。

最後に、お気に入りのシーンを教えてください。

稲 ガラス越しのキスシーンですかね。この映画ならではの設定に、二人の気持ちうまく乗っかっていて、好きですね。
武 僕は、健司と美雪が、一枚のハンカチの両端を持って海辺を歩くシーン。現場で撮っていても、涙が出ました。
稲 本当に自信をもって観てくださいと言える作品が出来ました。
武 ぜひ劇場の大きなスクリーンで、この世界に浸っていただきたいです!

 

映画『今夜、ロマンス劇場で』 http://wwws.warnerbros.co.jp/romance-gekijo/
映画監督を夢見る青年・健司(坂口健太郎)は映画撮影所を奔走する毎日。そんな健司の唯一の楽しみは映画館“ロマンス劇場”へ通うこと。古いモノクロ映画のヒロインである王女・美雪(綾瀬はるか)に心を奪われ、スクリーンの中の彼女に会うために映画館に通い続けていた。
そんなある日、美雪が実体となって健司の前に現れる。モノクロ姿のままの彼女をカラフルな現実世界に案内するうち、二人は惹かれ合っていく。しかし美雪には、人のぬくもりに触れると消えてしまうという秘密があった。
決して結ばれない運命に二人が出した答えは―。
2018年2月10日(土)、ロードショー。


監督:武内英樹(右)
「神様、もう少しだけ」(98年)を始め、「彼女たちの時代」(99年)、「カバチタレ!」(01年)、「電車男」(05年)、「のだめカンタービレ」(06年)、「デート~恋とはどんなものかしら~」(15年)で、ザ・テレビジョンのドラマアカデミー賞の監督賞を5度受賞するなど、数々のヒットドラマを演出。
映画では『のだめカンタービレ 最終楽章 前編』(09年)、『のだめカンタービレ 最終楽章 後編』(10年・総監督)、『テルマエ・ロマエ』(12年)『テルマエ・ロマエII』(14年)で監督を務め、いずれも大ヒットに導いた。

稲葉直人(プロデューサー)(左)
『ハッピーフライト』のアシスタント・プロデューサーなどを経た後、数々のヒット映画の製作を手掛ける。武内監督とタッグを組んだ『テルマエ・ロマエ』(12年)では、優れた映画製作者に贈られる藤本賞に輝いた。
その他のプロデュース映画に『劔岳 点の記』(09年年)、『SP 野望篇』(10年)、『SP 革命篇』(11年)、『ロボジー』(12年)、『真夏の方程式』(13年)、『テルマエ・ロマエⅡ』(14年)『バンクーバーの朝日』(14年)、『信長協奏曲』(16年)などがある。

取材・文:木下千寿