映画『ブルーハーツが聴こえる』 工藤伸一監督インタビュー

映画『ブルーハーツが聴こえる』という企画が生まれたきっかけは?

2013年頃、ブルーハーツが2015年でちょうど30周年ということで、そこに向けてブルーハーツに捧げる作品を作りたいと思ったんです。
その頃はまだ1本の長編映画として企画の相談に行きました。そこでブルーハーツの関係者の方から、「折角オリジナル曲が120曲あるんだから1本だと勿体無いですよ」と言っていただいたんですね。
ブルーハーツの曲って、それぞれが主題歌級のエネルギー、重さがあるんですよね。だから挿入歌的な使い方はできない。それなら一曲ずつ、それぞれの歌を主題に作ろう!と、今回の短編映画の集合体になりました。
監督陣には、やはりブルーハーツをリアルタイムで通った世代の方々にお願いしたいなと思い、我々近い世代6名になりました。やっぱりあの時代を通ってらっしゃるので、皆さん熱量がすごいです。

曲やキャスティングなど、各作品それぞれの選定はどう行われたんですか?

主題となる曲や制作スタッフ、キャストは全て各監督にお任せしました。そうしたら、なんと主題曲が一切被らなかったんです!しかもどの曲もメジャーな曲。ブルーハーツをきちんと聞いたことがない方でも、どこかで聞いたことのある曲たちになっています。
テーマは『ブルーハーツの曲を題材にする』ということのみで、他は一切規制がない。近年では中々ない自由な制作スタイルでしたので、各監督ごとの色・違いがハッキリと出ています。でも、その中でもそれぞれのテーマ曲がパワーを持っていて、全部を繋げてくれている。ブルーハーツの楽曲がバラバラな個性の作品を一つの世界にまとめてくれているんです。

公開までの経緯を教えてください。

初めは、ブルーハーツ30周年である2015年公開予定でした。ところが製作委員会上でトラブルがあり、全ての作品が完成していたにも関わらず、公開が中止になってしまったんです。
スポンサー探しが難航しつつ立て直しを図る中、この作品たちをそのままにはできず、まずは映画祭に出すことになりました。一番最初はゆうばり国際ファンタスティック映画祭。平日朝10時の上映で超満員!そこで映画関係者が「こんな面白い作品を埋もれさせちゃダメだ!」ということで色々水面下で働きかけてくださいました。
そこからしたまちコメディ映画祭で上映。舞台挨拶で登壇して頂いた斎藤工さんの影響もあって、その映画祭史上最高の動員数だったみたいです。その後、高雄映画祭など海外の映画祭でも上映してどんどん反響が大きくなり、この流れを逃してはいけないと、クラウドファンディングに踏み切りました。そこでも沢山の方々にご支援いただき、やっと上映できることになりました。
ブルーハーツは伝説のバンドですけど、彼らも実は意外と下積み時代が長く、ファンとともに作り支えられてきた人たちなんです。今回クラウドファンディングで支援してもらって上映に至ったこの映画は、今となっては彼らの歴史にリンクしているような気もします。

工藤監督の『ジョウネツノバラ』制作秘話を教えてください。

ジョウネツノバラ

今回は永瀬(正敏)さんに脚本を書いていただきました。当初、永瀬さんは脚本家として専念される予定だったのですが、是非出演していただけないでしょうかと。とはいえ、自分で(脚本を)書いて自分で演じるというのは難しいお願いだったと思います。
最初は長編映画ほどの長さのプロットから、2人で数え切れないほど話し合い、ストーリーも増えたり減ったり…それを何度も繰り返していって、登場人物の心情とシンプルに向かい合った結果“台詞ナシ”になりました。
また、今回はCG等一切使わずに完成させました。やはりブルーハーツの裸の魂を作品にするとなったら、小手先の手法などは使わずに勝負したくなったんですよね。

映画は、やはりCMやMVとは違うものですか?

それが意外と違わなかったんですよ!これまで400本ほど映像を作ってきて、自分でも知らないうちに色んな制約の中でそれを回避しながら作品を作る技が染みついていたみたいなのですが、今回は制約がない中でどうなるかと思いきや、実は“台詞がない”とか制約を自分で作っていたので。“制約の中で作品を作る”というのが自分のスイッチを入れてくれる感じでした。
今回は台詞のないショートストーリーなので、MVと同じような印象だけは避けました。それは僕だけではなく、他の監督みなさんも同じ。“音楽が主題=ストーリー仕立てのMV”は避けよう、きちんと映画としての一作品を完成させよう!という意気込みでした。
これが長編映画だとまた違ったかもしれませんが、自分にとって初めての映画というプレッシャーや力みは全くなく、デビューとしてはとても恵まれた環境だったと思います。

改めて、今作の見どころを教えてください。

今回の『ジョウネツノバラ』は、スクリーンの中で何ができるか、色んな試みを詰め込みました。1カット1シーン、新しい仕組み・自分の挑戦が込められています。全てのシーンで一旦停止して『どこ?』と聞かれても答えられますよ(笑)。
また、映像だけではなく音にもこだわりました。この作品全体は5.1chですが、そこを敢えて一部ステレオ2chにしたり色々…どこでどういう風に切り替わっているか、気にしながら見てもらえたら、また違った楽しみ方なんじゃないかなと思います。
公開まで色々ありましたが、結果この映画『ブルーハーツが聴こえる』にとって、一番いい状態での公開になったと思います。これが音楽を原作とした映画のパイオニアになったらいいな。
各監督の作品がそれぞれ違った方向性で、一見まとまりがないように思える短編映画の集合体ですが、そこを繋げてくれているブルーハーツの魂や魅力を、たくさんの方に感じていただければ幸いです。

 

映画『ブルーハーツが聴こえる』 http://tbh-movie.com/
1995年に解散した伝説のパンクバンド「THE BLUE HEARTS」の楽曲を、工藤伸一をはじめ、飯塚健、下山天、井口昇、清水崇、李相日6人の監督がコメディ、SF、ファンタジーなどジャンルも様々に自由な解釈で映像化した映画。
尾野真千子、市原隼人、斎藤工ら豪華俳優陣にも注目。
4月8日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー。


工藤伸一
コマーシャルを中心に、ミュージックビデオやショートムービーなど数多くの作品の企画・演出・プロデュースを手掛けており、ロンドンでのグラフィックデザイナーを経験を生かした作風や、飽くなき映像美への追及が評価を受けている。手掛けた作品は400本を超え、日本のみならず、香港、台湾、中国、シンガポール、マレーシア、タイ等アジア諸国にも精力的に活動の幅を広げている。本作で映画監督デビュー。

撮影・文:ヒカリグラフ