大島新監督 映画『園子温という生きもの』インタビュー

映画『園子温という生きもの』を撮ろうと思ったきっかけを教えてください。

2014年に「情熱大陸」で園さんを取材したのですが、放送後に『この人(園子温氏)、もっと面白いだろうな』と思ったことがきっかけです。
「情熱大陸」の時は、まだ少し距離があるというか、お互い余所行きな感じがありました。それでも番組としては十分面白かったんですが、もっと時間をかけることでより深く園子温という人を表現できるんじゃないかと。
また、番組の取材の終盤、園さんがこれから「ひそひそ星」という作品を撮ることがわかったんです。
そもそも園さんに興味をひかれたのは震災以降の彼の発言や行動でした。「ひそひそ星」を福島で撮るということを知り、彼にとって大きな意味を持つ作品になると直感し、その間の園子温を撮りたいと思いました。

他でもない、園子温氏をもう一度撮りたいと思った理由はなんでしょうか?

捉えきれない人だなと感じたのが大きいです。
こちらがわかった気になって『園子温とは○○な人だ』とは言い切れない人なんですね。精神の自由さがすごくて、多面体というか…よくわからないけれど、魅力がある。
園さん自身、“こういう人”という決めつけた解釈をされることを拒否し続けているところがある気がします。
そういう意味では、この作品を観たある人が「“園子温という生きもの”がさらにわからなくなった」という感想をくれたのですが、僕はそれを褒め言葉として受け止めています。

ネタバレにならない範囲で、印象に残ったシーンを教えてください。

園さんがアトリエで泥酔しながら絵を描くシーンなど色々ありましたが、敢えて一つあげるとするなら神楽坂恵さんへのインタビューシーンです。
1ショットの証言インタビューを撮っているはずだったのに、途中からドキュメンタリーになっていく。
神楽坂さんは園組の常連俳優でありながら、園さんの妻として一番近くにいる人でもある。
普通のインタビューとしては珍しいくらい、長く使いました。
あのシーンは、園子温さんという人をとてもよく表していると思います。
また、作品全体として、今回はTV作品ではなく映画なので、過剰に情報を詰め込みすぎることなく、なるべくそのまま見せることができたかなと。

撮影中、大変だったことはありますか?

元々、なれあいにはならないほうがいいと思っていました。園組のメイキングムービーではないので。それでも、大体は被写体との距離が回数を経るごとに程よく縮まっていくことが多いんですが、園さんの場合、なんだかふいにスイッチが噛み合わないことが時々ありましたね(笑)。
ある瞬間に急に距離が縮まってにこやかになったかと思えば、次の日、また余所余所しくなっていたりする。僕との相性の問題でもあるのかもしれないですが、そういう人との距離感が、園さん独特なのかな。
言葉のとおり「三歩進んで二歩下がる」という感覚でした。その程よい距離が、この作品の面白さでもあります。

ジャンル問わず、大島監督が影響を受けた作品はなんですか?

昔から活字のノンフィクションが好きでした。特に、沢木耕太郎さんの一連のノンフィクション作品が好きで、学生の頃、ずっと読んでいました。
中でも「敗れざる者たち」という作品に一番ハマりました。

大島監督にとって、ドキュメンタリーとは何でしょうか。

うーん、なんでしょうかね…。改めて言われると難しいですね(笑)。
ドキュメンタリーをやっていて感じる面白さの一つは、ある期間の人物やその仕事を追い続け切り取ることで、己を知ることができるというところ。
その人はどうやって自分の居場所や仕事を獲得していったのか、向き合っていったのかということを、生の声と共に知ることができる。
例えば、『園子温という人はこういう才能があるからこういう生き方だけれど、自分は違うな、どう生きていこうかな。』とか、そういうことを色々と考えるきっかけになります。

改めて、この作品の見どころを教えてください。

タイトルの通り、園子温さんは珍しい生きものなんです。野生動物みたいというか(笑)、撮っていても何が起こるかわからない。
そんな感じで一年間撮ってきたものを、記録として97分、ベストなチョイスをしました。
生きること、表現することとはいったいどういうことなのか?映画を見ても答えはわからないかもしれない、だけど、わからないなりに心に残ると思います。
特にこういう芸術や表現活動を志している若い方に是非とも見てもらいたいです。園さんの自由さに影響を受けてほしい。僕も少なからず影響を受けました。
また、若くなくても、45歳でも50歳でも、弾けていいんだ!と思える作品です。幅広い沢山の方に見ていただければと思います。

 
©2016「園子温という生きもの」製作委員会
映画『園子温という生きもの』 http://sonosion-ikimono.jp/
監督:大島新
出演:園子温   染谷将太 二階堂ふみ 田野邉尚人 安岡卓治 エリイ(Chim↑Pom) 神楽坂恵
常に時代を挑発し、世の凝り固まった常識に疑問符を投げかける映画監督・園子温。50歳近くまで、食うや食わず。ニッチなカルト監督だった彼は、『冷たい熱帯魚』(11)、『ヒミズ』(12)から『新宿スワン』(15)までのわずか5年の間に大きく変容した。ヒットを飛ばし、国際映画祭での賞取りの常連になり、結婚し、そしてある日、敢然とメディアに登場するようになった。さらに小説を書き、絵を描き、バンド活動もする。そんな姿を捉えながら、染谷将太、二階堂ふみ、エリイ(Chim↑Pom)、神楽坂恵といったゆかりの人物による証言も交えて、“生きもの”園子温に迫る。彼が作る映画だけでなく彼自身、園子温の“いま”が面白い。
5月14日(土)新宿シネマカリテほかロードショー
※園子温監督作品『ひそひそ星』と同時期ロードショー


大島新 ARATA OSHIMA
1995年早稲田大学第一文学部卒業後、フジテレビ入社。「NONFIX」「ザ・ノンフィクション」などドキュメンタリー番組のディレクターを務める。1999年フジテレビを退社。
毎日放送「情熱大陸」で、『寺島しのぶ』『美輪明宏』『秋元康』『見城徹』『田中慎弥』などを演出。他にNHK「課外授業ようこそ先輩」「わたしが子どもだったころ」など。
2007年ドキュメンタリー映画『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』を監督し、第17回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞を受賞した。
映画監督・大島渚の次男。
『僕にとって表現とは、己を知るためのもの。』

撮影・文:ヒカリグラフ