北川弘美さん&坂口理子さん 舞台『風は垂てに吹く』対談
舞台『風は垂てに吹く』のあらすじを教えてください。
坂口 北川さん演じる夏月(ナツキ)という、空を描くのが得意な女流画家が、旦那さんの事故をきっかけに空を描くことができなくなってしまいます。“モーニンググローリー”という伝説の雲を描くために、ある廃墟の天文台にやってきます。そこでモーニンググローリーについて知っている少年に出会います。奇跡は起こるのか、彼女の旦那さんへの想いは届くのか…?というお話です。
北川 私が演じる夏月は、TLSに陥った夫への処置が正しかったのか、ずっと悩みを抱えています。その悩みを解決したいという思いから、唯一の手がかりである“モーニンググローリー”を見ることができたら奇跡が起こるのでは…という希望を抱いて話は進んでいきます。
この舞台を書こうと思ったきっかけはどういうものだったんですか?
坂口 まず最初に『今度は“空”を(テーマに)やろう』というのはありました。そして私自身がグライダーがとても好きなんです。エンジンがないのに飛ぶって、すごくロマンチックだなって。最初はそれくらいぼんやりしたものでした。
ある日、TLSという病気を知り、まったくの閉じ込め状態と、どこまでも広がる空、という両極端な二つを結び付けられないか?と考えたのがきっかけですね。
主演の北川さんの、女優としての魅力はどういったものでしょうか。
坂口 『ゆらぎがある』というところでしょうか。すごく芯があって、凛としている方…というのが第一印象なんですが、本読みでご一緒したら、ゆらぐんですね。真っ直ぐなんだけど、どこかふわっと揺れてしまう。とても魅力的だなと思いました。危ういところがあるんです。それは物語を描くうえでとても重要な要素ですね。
北川さんは今回初めてテトラクロマット作品に参加されて、他とは違う演出法などはありますか?
北川 テトラクロマットというユニット自体、ムーブメントでお芝居や空間を創り出す、という新しい試みをされているんですね。どうやってこの動きを劇場の大きさに膨らませて、客席の皆様を巻き込んでいくか、というのは、初めての挑戦で、自分にも大きな勉強になっています。私の役は、観ている方の目線と同じようにこの世界に迷い込むので、そこまで動きは多くないのですが、そのぶん、ほかの出演者さんがたくさん動いています。私はその中に、どれくらい巻き込まれていくか?というのが大きな課題ですね。
坂口 稽古中も、巻き込まれ方や受け取り方のニュアンスをどのレベルにするか?ということで台本が変わったりしました。
稽古現場の空気はどうですか。
北川 初日がいきなり通し稽古だったんです!とりあえずみんなでテンパりましたね(笑)。とにかく立ってセリフを言う、というところからのスタート。でもそれをやることで、演出サイドも演者サイドも雰囲気が掴めました。それに、「初日から通せたし、もう何でもできる!」という不思議な自信というか、連帯感のようなものがありますね。
坂口 確かに!(笑) 一つ山を越えちゃったから怖いものはあまりないぞ、みたいな空気はありますね。また、北川さんが舞台に立たれると、それまでごちゃごちゃっとなっていた方向性や空気がスッと定まるんです。空気を含めて物語を集約させるような、主役としての立ち方をされていますね。
最後に、改めてこの作品のみどころを教えてください。
坂口 お話自体はとてもわかりやすいんです。それを舞台として、ライブとしていかに伝えるかを目指しています。ノーマルな物語の中から、生で見ないと感じられない良さが立ち上がる瞬間を一緒に体験できたらと思います。
北川 今回の舞台は転換が一つもないですし、幻想的な照明など、会場全体で独特な空気感を楽しんでいただけると思います。
坂口 空をやろう、と決めたときから、吉祥寺シアターの空間はきっと合うと思っていたんです!あの劇場ならではの使い方でお届けします。
北川 私は、稽古中ずっと「夏月がどのように救われるのか?」をずっと考えています。彼女の苦しみは物語が進むことでどう変わっていくのか。揺れながら、迷いながら、夏月が最後にたどり着く瞬間を是非楽しみにしていただければと思います。
舞台『風は垂てに吹く』
テトラクロマット第3回公演「風は垂て(たて)に吹く 愛していると言うかわりに、空を飛んだ」
2016年8月18日(木)〜23日(火) 吉祥寺シアター
チケット(全席指定)/前売:4,500円 当日:4,800円 U-22:3,000円(22歳以下、要身分証確認)
テトラクロマットホームページ http://tetrachromat.net/
お問い合わせ info@tetrachromat.net
左:北川弘美
女優。1981年京都府出身、オスカープロモーション所属。
雑誌『CanCam』の専属モデルとして活躍後、ドラマ『嬢王』では主演を好演、以後多数の作品に出演。近年は、ゴルフ、マラソン、トライアスロンなどアクティブな活動も増えてきてる。
最新作として、飯塚立子役で出演した映画『バニラボーイ トゥモロー・イズ・アナザー・デイ』が9月3日(土)TOHOシネマズ新宿ほか全国公開予定。
『不思議な世界に馴染みすぎてもダメですし、馴染めなさ過ぎてもダメなので、そこの加減がカギですね。』
右:坂口理子
テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞・優秀賞、創作テレビドラマ大賞・最優秀賞、WOWOWシナリオ大賞・優秀賞、第36回城戸賞など数多くの脚本賞を受賞。
近年、フジテレビ『私が恋愛できない理由』NHK『わたしをみつけて』などの連続ドラマや、小説『フロイデ!〜歓喜の歌でサヨナラを〜』、また、高畑勲監督のスタジオジブリ映画『かぐや姫の物語』と、幅広く執筆活動を行っている。
『北川さんは私が夏月に欲しかったイメージを持ってらっしゃったので、自然に夏月も北川さんに近づいていくという結果になりました。』
撮影:大村祐里子