映画『ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど。』 主演:中野裕太さん&谷内田彰久監督 対談


今作で谷内田監督がモギさんに中野さんをキャスティングした経緯を教えてください。

谷内田監督(以下、谷) 僕がその頃日本におらず、日本の役者さんを全然知らなかったので、とあるドラマの撮影中の中野さんの写真を送ってもらったことがきっかけです。その頃は『シュッとしすぎてるかも?』と思ったんですが、モギさんに近い雰囲気はあったので、お会いしました。
中野(以下、中) くしゃっと笑った笑顔がモギさんに似てると言われました。
谷 直前まで撮影自体がどうなるかわからない状況でした。とりあえず一緒に台湾に向かって、色々深い話をして『中野くんなら大丈夫だな』と確信を得ました。
中 台湾のホテルで色々語りましたよね。そこで自分のやりたい演技と監督の求めるものが同じ方向を向いていたから、価値観の共有ができました。
谷 実は僕、監督の仕事が7年ぶりで、この仕事をまたやり続けられるかどうか不安や心配があったんです。こんなに楽しいのにお金までもらっていいのだろうか?とか(笑)。そんな時に中野くんと出会って、制作する上で色々意見をもらったり、一緒に芝居について考えたりして、とても楽しかったんですよね。この人(中野さん)がいてくれるんだったら監督を続けてもいいのかもしれないと思いました。

台湾ロケは大変だったのでは?

谷 大変でしたね。でも日本の方が大変な面もありますよ。
中 映画やドラマの“ロケ”に関しては、日本が一番大変なんじゃないですか?
谷 そうですね。東京は特にそう。行政が厳しいので…。申請も色々あるし、時間内にきっちり終わらせないといけないし。
中 台湾ロケは、役者としてはいい環境でした。スタッフは皆さんプロだし、一丸となって撮影してました。監督やスタッフさんたちは、色んなものの準備や手配で大変だったかもしれません。
谷 撮影用の道具やロケ地はお願いしたものと全然違うものが出てきたり、こだわりが通じなかったりはしたところはあったかも。
中 撮影で一番大変だったのは、店長が歩くだけのシーンなんですよ。ただ歩いて通り過ぎるだけなんですけど30テイクくらい重ねてます。これは台湾の取材でもリンちゃん役のマンシューが同じことを言ってました(笑)。
谷 間が独特だったんだよね(笑)。
中 現場ではみんなアドリブが多かったです。基本的にお芝居が抜群にうまい方々なので、日本語がわからないのに色々感じ取って的確なアドリブをバンバン入れてきて、アドリブ合戦みたいになったシーンもあります(笑)。でも言葉がわからない分、よりクリアに伝わるものも多かったです。
谷 通訳の問題で、台湾のキャストに芝居を伝える時に細かいニュアンスが変わることが多かったので、カメラの前で一旦自分で演技をして見せたりしました。お母さん役のワン・サイファーさんは演技も圧倒的で、みんながそっちに引っ張られすぎないように気をつけました。

モギさんがリンちゃんに最初に会った時の表情が印象的でした。

谷 あそこは一番神経使いましたから、そう言ってもらえて何よりです!
中 この作品で監督の演出が一番細かかったシーンです。『リンちゃんに声を掛けられて顔を上げ、横断歩道を渡る』という数秒の中だけで最低5、6個の感情の揺れ動きがあって、そこを全て納めたいと言われました。ハイスピードカメラで撮影するスローモーションの数秒で、瞬き一つすら制御しました。

お客様の反応に国ごとの違いはありましたか?

谷 やっぱり多少の違いはありますが、基本的にはどちらでも素直に受け取ってもらえたかなと思います。日本と台湾、両国の方々にきちんと通用するものにする必要があったので、編集の途中で何度か現地の色んな方に見てもらって、指摘や意見をもらいました。後半は日本と台湾で少し反応が違いますね。日本だと少しコメディ調に写るけど、台湾だと言葉がわかるから、素直に入り込んで号泣してもらえたんです。
中 実際は海外に行けば行くほど、日本も外国も変わらないと実感します。多少のアピールなどの強弱はありますけど、それは日本人でもあることですから。言葉や見た目、ちょっとした習慣の違いで壁を作っちゃったバイアスがかかった状態で、同じことは日本人同士でも起こり得る。どんな国でもどんな人種でも、特に恋愛は同じですね。同じことで嬉しくなるし、同じことで嫉妬するし。今回の作品にしても『国際結婚で』『SNSがきっかけで』というバイアスがあるけど、結局は男女が出会って、恋に落ちて…という普遍的な物語を、色々誇張しただけなんですよね。

中野さんが谷内田監督の演出で一番印象に残った点はどこですか?

中 基本的には自由にやらせてくれることが多いですけど、監督はノッてくるととってもいいことを言ってくれるんですよ!その指示が本当に素晴らしいので、僕らもワクワクするし、よし見ててくれよ!って思うんです。この作品は僕が29歳最後の撮影でした。タレントとして紆余曲折あったけど、やっと役者で0歳になれたと思える作品になりました。とてもメモリアルな作品です。

中野さんの役者としての魅力はズバリ何でしょうか?

谷 “限りなく人である”こと。提示してくる感覚が、セリフや芝居を超えた生きている人なんです。撮影現場で撮影や音声を越えたところをまとめなきゃいけないのが監督ですが、最後に飛び越えるのは役者でしかできないことなんですよね。そこを素直に越えてきてくれる俳優。すごく稀有な存在です。
中 今作に限らず、芝居をする上で極限まで細かく自分の感情をキャプチャーしたいんです。物質的にではなく、芝居の中の感情の揺れを緻密に押さえたい。
谷 自分の芝居だけじゃなくて、相手の芝居を計算することにも凄まじく長けてますね。芝居は必ず2人以上でするものですが、相手ができない場合もそこを補完する能力がとても高いです。

改めてこの作品のみどころを教えてください。

中 僕は、映画というものがデートやお出かけのキラーコンテンツであって欲しいんです。僕自身も映画館に映画を観に行くのが好きだし。色んな映画がある中で、この作品は本当に爽やかに楽しめる作品です。観た後にちょっと笑顔が増えたり、誰かと手を繋ぎたくなったり。映画館で90分間、素敵な風を感じてもらえたらいいなと思います。
谷 『もう一度、誰かと一緒に見に行きたくなる映画』を目指しました。最初見たことは忘れて、新たに楽しんでもらえたら嬉しいです。また、実は細かいところも色々拘っているので、4Kのフルサイズで見るとそれがわかるようになっています。日本の劇場だとまだ難しいんですが、いつか4K上映してみたいですね。

 

映画『ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど。』 http://mama-dame.com/
日本のドラマやアニメが大好きで、日本語を大学で専攻する台湾人女性リン(ジェン・マンシュー)へ、日本人青年モギ(中野裕太)がfacebookを通してメッセージを送る。ネットでの交流を通して、親密になっていく二人。しかしリンのママという障壁が立ちふさがり…。33万人以上のファンを持つ実在するカップルの恋愛物語が待望の映画化。5月27日(土)新宿シネマカリテ、ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場他全国順次公開。


中野裕太(写真左)
1985年10月9日生まれ。福岡県出身。
演技を、今井純氏に師事。
2013年にGAS LAWを結成。
映画「遠くでずっとそばにいる」などに出演。
粗野で繊細。聡明で阿呆。太陽と一緒になった海。蕾。非常に矛盾しているが、それでいて素直な人。

谷内田彰久(写真右)
1979年4月24日、大阪生まれ現在韓国在住。大阪芸術大学映像学科卒業後、深夜ドラマに携わり24歳の時に監督深夜ドラマ「苺リリック」を担当し監督として独立。企画監督脚本としてはTV を中心に「天使のココロ」「僕の彼女にプレゼンします!」「ヒーローズ」「あいまいな殺人」「助っ人チェリー」ドラマやCMなどを製作。2016年10月MBS.TBS放送「拝啓、民泊様。」の原作および監督。2017年5月27日(土)公開「ママは日本へ嫁に行っちゃダメというけれど。」長編初監督。

撮影:大村祐里子