映画『氷菓』 安里麻里監督インタビュー

今回の『氷菓』の映像化ならではのポイントを教えてください。

米澤穂信先生の作家性として、推理物の中でもテキスト読解、つまり文字から想像して推理していくという面白さがあります。そこをいかに映像化するのか。映像ならではの見せ方をしていかなければ、というところをみんなで追求しました。
例えば、古典部の部員が“33年前の英雄は何故消えたのか”を探るために和室に集まるシーン。文章だと素直に読み進められますが、映像化すると、俳優たちが集まって座って話すだけの画面になってしまう。そこを4人のキャラクターを活かして、それぞれの推理展開を表現したりしました。

メインの若手キャストの印象を教えてください。

主人公の奉太郎は文語調で話すしぶっきらぼうで、演じるには中々難しいキャラクターだと思うんです。でも、山﨑賢人さんなら、浮いてしまうことはない。山﨑さんの存在感で、奉太郎はトゲがなく、むしろ見ていて愛着が湧くような人物になりました。
えるはただ立っているだけで凄い目力、存在感がないといけない。また、行動し出したら止まらない力強さが欲しくて、広瀬アリスさんはまさにえるにピッタリでした。
小島藤子さんは以前もご一緒したことがあるのですが、彼女自身とてもオタクなんです。摩耶花もオタクで、かつ可愛らしい女の子。小島さんにピッタリだなと(笑)、すぐ決まりました。
岡山天音くんは、彼が醸し出す賢さがとてもハマっていますよね。データベース役でも嫌味がない。それに岡山くんと山﨑くんは、プライベートでも仲良しなんです。そこの地の仲の良さやツーカーっぷりは役の関係性にもとてもいい効果を与えています。

モノローグが非常に多い作品ですが、バランスなど調整が難しかったのではないですか?

そうですね…。引いて観察したり、真逆のことを言ってみたり、色々試しました。
最初に奉太郎の声のトーンをしっかり決めてしまいたくて、撮影する前に山﨑さんのナレーションを全て先に録りました。2時間分、全部です。4時間くらいかかりました(笑)。
今回の山﨑さんの役って今まで見たことがないキャラクターだと思うんです。クールだけど、ナルシストではなく、落ち着いた信念のある人。そういったキャラクターから、山﨑さんの普段の声より1トーン抑えてもらい、そこをベースにお芝居を組み立ててもらいました。
山﨑さんは以前お仕事をご一緒した時より、かなり成長してました。集中力があって、役者然として、座長として逞しくなっていました。普段の人の良さもありつつ、お芝居にはとても真摯で、素敵な役者さんです。

今作は監督のフィルモグラフィーの中で初の“人が死なない”作品ですね。

実はそうなんです(笑)。でも私自身は、ホラーだからこうしなきゃ、ああしなきゃという縛りを作っている訳ではないんですよね。やっていることは今までも今回も変わっていません。
三隅研次監督の作品が好きで、その影響がとても大きいかな。三隅監督って物事を90度で捉えていることが多いんですよ。私も真正面や真横からのカットが多いです。そういった要所要所の画作りには、自分の個性が出ていると思います。
いきなり見ている人を突き放すような撮り方をしますね。そういうのが好きなんです。普通はちょっと斜めに振ったり、なめてみたりすることがあるんじゃないかな。

監督が印象に残ったシーンはどこですか?

広瀬さんのクライマックスシーンは特に印象に残っています。広瀬さんご自身が集中力がとても高い方でした。
集中力が必要なシーンの前って、大体の役者さんは1人になられたりして、私たちもそこに干渉しないようにするんですが、広瀬さんはそれがなくて。撮影の直前まで普通にそこにいたんです。それなのに、撮影始まったら一発でOKでした。
本郷奏多さんも、感情を露わにするシーンで凄いものを見せてくださいました。とても勘のいい方でしたね。彼が出ていないシーンでも見ていてほしいところっていうシーンがあるんですが、そういう時、振り向くとちゃんとそこにいるんですよ!脚本を読んだ時点で、自分が見ておくべきところ・押さえておくべきところがわかっちゃうんですよね。作り手の目線も持っている…恐ろしい才能の持ち主です。

改めて映画『氷菓』の見所を教えてください。

この映画は、原作の小説の世界をしっかりと活かして作りました。タイトルバックも出ず、章立てで進んでいきます。文芸作品として、小説を読むように楽しんでもらいたいです。
米澤先生関連の色んなモチーフや先生の出身地など、原作ファンの方が見つけてニヤッとしてもらえるような隠しポイントも散りばめてあります。
あとは、今までにない山﨑賢人さんの新しい魅力を感じ取ってもらえたら嬉しいですね。
見所は沢山あります。是非映画館でご覧いただければと思います。

 

映画『氷菓』 http://hyouka-movie.jp/
出演:山﨑賢人 広瀬アリス 小島藤子 岡山天音 天野菜月 眞島秀和 貫地谷しほり(特別出演) 本郷奏多/斉藤由貴
監督・脚本:安里麻里 原作:米澤穂信「氷菓」(角川文庫刊)
主題歌:イトヲカシ「アイオライト」 エイベックス・トラックス
製作:「氷菓」製作委員会/制作プロダクション:角川大映スタジオ/配給:KADOKAWA
2017年11月3日(金・祝)全国公開


安里麻里
1976年生まれ、沖縄県出身。04年『独立少女紅蓮隊』で劇場長編映画デビュー。切れのいい演出が高い評価を得、続く『地獄小僧』(05)はフランクフルト映画祭に出品された。その後、「怪談・新耳袋」などテレビドラマにも進出、活躍の場を広げる。09年『呪怨 黒い少女』を監督。
近作『バイロケーション』ではホラー要素と謎解きミステリー、そして人間ドラマを見事に融合させ、各方面で絶賛を浴びた。その他の監督作に『トワイライトシンドローム デッド ゴーランド』(08)、大ヒットシリーズの三連作『リアル鬼ごっこ3・4・5 』(12)、幻想的な映像美が評価されたホラー『劇場版 零~ゼロ~』(14)がある。今後が最も期待される女流エンターテインメント監督の一人。
最新作は、『鬼談 百景』(15)、Jホラーを代表する監督の1人として、オムニバス全10作品中『影男』『尾けてくる』の2作品を監督した。

撮影:大村祐里子