デルトロおじさんのメキシコ麻薬カルテル紀行『ボーダーライン』

あらすじ:シウダー・ファレスいいとこ一度はおいで。

☆☆☆(星3つ)

「メキシコ 地獄の抗争」「皆殺しのバラッド」、テレビドラマではNetflixの力作「ナルコス」…と、ここ数年”南米麻薬カルテルもの”の勢いはすごい。現実離れした暴力がアメリカのすぐ隣の国で現実に行われているというその身近さが、「会いに行ける地獄」的にウケているのかもしれない。全然違うかもしれない。

そんな飛ぶ鳥を落とす勢いの南米麻薬カルテル映画界にエミリー・ブラント×ベニチオ・デル・トロのスターキャストが挑む今作。監督は「プリズナーズ」で注目を集めたドゥニ・ヴィルヌーヴ。

FBIの特別部隊のメンバー、ケイト(エミリー・ブラント)は任務で突入した組織のアジトでメキシコ名物「壁に塗り込められた死体」を発見。その後、仕掛けられた爆薬が爆発し、仲間を失ってしまう。麻薬ヤクザの底知れない不気味な雰囲気がよく出てたいい導入だ。
CIAからその道のプロ、マット(ジョシュ・ブローリン)と謎のコロンビア人アドバイザー、アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)が登場し、対カルテルの秘密ミッションに参加させられたところでエミリー・ブラントの立ち位置がはっきりする。今回の犠牲者はこの人か。

あれよあれよとメキシコ最狂の街シウダー・ファレスに潜入させられる気の毒なケイト。いつ銃弾が飛んできて蜂の巣にされるかわかったもんじゃないピリピリしたこの空気、たまらねぇぜ。
とにかく敵も味方も尋常じゃない中、一般人代表として振り回されっぱなしのケイト。もちろん優秀な人材なんだけど、南米には一般常識が通用しないということを観客とともに痛感する立場なので、心が折れるような出来事ばかり起こる。かわいそう。

でもこの手の映画にはそういう人材が必要なんですよね。そのキャラクターの絶望と疲弊が深ければ深いほど、安全なところにいる我々観客もメキシコが抱える八方塞がりの空気を肌で感じることができる。

その一方でやけに楽しそうなのがベニチオ・デル・トロだ。トロンとしたあの独特の目つきと何を考えてるか分からない振る舞いで最初から「強キャラ感」を出してたけど、彼の本当の目的が判明した時から映画の空気がガラッと変わってしまう。
スティーブン・セガール主演だったら「沈黙の境界線」という邦題がつくであろうまさかのデル・トロ無双。「Sicario(暗殺者)」という原題どおり、その凶行に敵も味方も震え上がることになる。

終始アメリカ側の攻勢が目立つので、カルテル側にもう少し恐ろしさが欲しいと個人的には思ってしまうけど、作品のバランスを考えるとこのへんがいいところなのかもしれない。でもデル・トロはちょっと強すぎるよなぁ。

☆☆☆…緊迫感は十分。弦楽器の低音を強調した音楽も重苦しい雰囲気にピッタリ。


ここまで書いておいて「メキシコは南米じゃないよな」と思ったけどまぁいいか。ジャマイカ名物のジャークチキンを食べながらレゲエ音楽でも聴いてるとそんな細かいことはどうでもよくなってしまう。

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
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