超豪華クレイジーヴァカンスをあなたに『胸騒ぎのシチリア』

☆☆☆(星3つ)

ラグジュアリーな雰囲気の裏で過剰な演出がギラギラに光る怪作「ミラノ、愛に生きる」の監督ルカ・グァダニーノ、待望?の新作。
今度の舞台はシチリアです。今回も大人の女性をターゲットにした「憧れのヴァカンス…熱い恋愛…」な佇まいながら、中身は前作に負けず劣らず珍妙な映画だった。この人やっぱりちょっとおかしいんじゃないの。

女性ロックスターのマリアン(ティルダ・スウィントン)は声帯手術のため世界ツアーをキャンセルし、年下のボーイフレンド、ポールとシチリアのリゾート島で療養&ヴァカンスを満喫していた。
そこに昔の恋人ハリー(レイフ・ファインズ)から突然連絡が入り、あれよあれよという間に娘のペンとともにズケズケと合流。
開放的な島の空気と4人の男女…それぞれの胸に心を掻き乱す熱風(シロッコ)が吹き荒れる…!(なんだこれ)

1968年のアラン・ドロン主演作「太陽が知っている」のリメイクということで、不勉強の塊なのでもちろん原作は観てないんだけど、あらすじを読む限りではお話自体はそんなに変わってないみたいだ。ただし独特の味付けが随所に施されていて、もはや話よりもそっちが気になってくる。
「手術後で声が出せない」というマリアンの謎設定、さらにハリーはThe Rolling Stonesの名盤の共同プロデューサー(もちろんフィクションです)、ポールの抱える暗い過去、そしてハリーの娘ペンが醸し出す妖しいイキフン…出てくる人物がみんなおかしいんだけど、全体的なテンションはあくまで大人向けのドラマで決してコメディではないというこの空気、そのムンムンと匂い立つグァダーニ的世界に困惑するしかない。だいたいいくらストーンズの話が出るからと言って「Emotional Rescue」が3回も流れるのもどんなバランス感覚なんだ。
好きな曲だけど、いちいち濃すぎてイマイチ集中できない。

ヴァカンス感を押し出した、いい感じの予告編のおかげか銀座の映画館はそれなりに埋まってたけど、ご婦人のみなさんは脱力するしかないあの衝撃的なラストを観てどう思ったんだろう。
いずれにせよ一流の俳優とゴージャスな衣装、風光明媚なロケ地を派手に使いながら、一方で独自のおかしな世界を追求するグァダーニとティルダ・スウィンドン様には、イタリア名所シリーズということでミラノ、シチリアに続いてまた頭のネジが外れたような映画を撮ってほしい。

☆☆☆…衝撃的なラストとか言っちゃったけど、別にものすごいことが起きるわけじゃないです。ただ「マジかよ」っていうね…。


映画の中で鯛の塩釜焼きをみんなで食べるシーンがあってすごくおいしそうだった。ので食べた。

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
https://twitter.com/odkysyk