今年度「ベスト・オブ・ロケ地」受賞作『エヴォリューション』

☆☆☆☆(星4つ)

「エコール」のルシール・アザリロヴィック監督11年ぶりの新作。
つい最近も「LOVE」で物議を醸したギャスパー・ノエのパートナーだけあって、こちらもなかなかにアレな仕上がり。
特に舞台となる孤島の町(村?集落?)の佇まいは目を見張る美しさで、これは文句なしで今年度の「ベスト・オブ・ロケ地」に選出したい。
黒い砂、白い建物、そして激しく打ち寄せる波が弧絶した環境を不気味に演出していて「ここでなにかあっても誰にも気づかれないだろうな…」と暗い気持ちになる。
「エコール」もそうだけど、この人は閉じられた世界を描かせたらピカイチの腕前だ。いやな腕前だと思うけど、人間の才能には実にいろいろな種類があるのだ。

女性と少年しか住んでいない不思議な孤島。10歳の少年ニコラ(マックス・ブラヴァン)は母親とその島で生活している。食事は海藻となにかを混ぜたような青黒い物体、食後にはこれまた謎の薬の服用、そして全ての少年が受ける奇妙な医療行為…客観的に見ると3分で「あかんやつや…」と気づくけど、他に世界を知らないニコラくんはその中でなんとなく穏やかに暮らしていた。
しかしある日、海中に沈む腐乱死体を見つけて以来、徐々に島の異変に気付き始める。そして意を決して、夜な夜などこかへ出かけていく母親を尾けることにするが、そこでニコラくんは世にも奇妙な光景を目にすることに…。

「エヴォリューション(=進化)」というタイトルが示すとおり、まぁ普通の人間の枠に収まらない人たちが出てくるんだけど、かといって普通の人間も出てこないので、奇妙な行動を繰り返す母親たちが異常なのか、異常な環境にけろっと適応している少年たちが異常なのかは観客にはよく分からない。
静かなトーンで背景もはっきりとは描かれないながらも決して難解な映画ではなく、むしろ話の輪郭はすごくつかみやすい。ぬめぬめとした恐怖と生理的な嫌悪感を刺激する描写の数々に目を覆いたくなる一方で、その奇妙な美しさからは目が離せない。90年代B級SFホラーの芸術度をマックスまで高めたような世界観がシビれる。

限られた材料から観客がこの世界の成り立ちをあれこれと想像して勝手に怖がるセルフサービス型スリラー。観終わったあとは海鮮料理なんか食べながらあれこれ言い合うのが楽しいかもしれませんね。

☆☆☆☆…劇中に出てくる食事は映画史上の「ワースト・オブ・映画の食事」な不気味さ。例えお芝居でもあれを食べるのはキツイ。日本に生まれてよかった。

s__4096028
こういうハンバーガーなんかを食べてると欲を言えばアメリカに生まれたかったと思うけど、この際贅沢は言うまい。

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
https://twitter.com/odkysyk