映画『僕らのごはんは明日で待ってる』市井昌秀監督インタビュー
この作品を映画化しようと思ったきっかけを教えてください。
喪失感を抱えた二人なので、一見暗くなりがちなドラマを、裏返しの明るさで爽やかに描かれているところに惹かれました。また、原作の言葉や世界観が、僕と合っていると思いました。人の痛みというものがしっかりあって、その上でユーモアがあるものが好きなんです。
原作を映画化するにあたり、気をつけたことは?
お芝居のアプローチとして、表面的なことを追っていくのではなく、物語の中で本当に起こったことを大事にしたいと考えました。亮太と小春がすでに中島さん、新木さんの中にあるので、過剰に足していく芝居ではなく、自身の中にあるものを虫眼鏡で観察するように探して、引き出していく作業でした。そこを彼らには芯から理解して演じてもらうことができました。
演出をするときも、例えば「もっと笑って」ではなく、大枠の状況を必要あれば説明して、気づかせていくことを心掛けました。
監督が想像以上にグッと来たシーンはありますか?
中島さんが片桐はいりさんの前で涙するシーンですね。あのシーンは何回撮っても毎回お芝居の熱量を変わらず出してくれて、それが素晴らしくて。現場も惹き込まれました。中島さんが今回こういう演じ方をすることが初めてだったようで、亮太を通して色んな面を見せてもらえたと思います。
また、体育祭のシーンは物理的に大変でしたけど(笑)、その分スタッフが一丸となって取り組みました。
中島裕翔さん、新木優子さんそれぞれの印象を教えてください。
お二人とも、とても素直な方でした。中島さんは、繊細なイメージがあるけど、案外人を笑わせるのが好きなんだなと思いました。新木さんはなんと言っても笑顔が素敵ですよね。でも時々影を感じさせるところも魅力的でした。
撮影中は意識していませんでしたが、久しぶりにお二人に会うと『やっぱりこの子たちはアイドルなんだ…!』と思います(笑)。撮影中は役者として、アイドルやモデルのスイッチはオフにしているけど、普段はこんなにキラキラしてるんだなあと。
市川監督が映画を撮ろうと思ったきっかけはそもそも何だったんでしょうか。
最初はお笑い芸人をやっていました。映画を撮ろうと思ったのは、ネタを作るために色んな映画やドラマを見て、こちら側に興味を持ったことがきっかけですね。ただ、最初は演じる側に行こうと思っていました。役者を目指して東京乾電池に入って修行して、でも所属できず、色々あてのない日々があって、ある日「自分で映画を作ろう!」と気づきまして…。結果、監督や脚本が面白くなり、演じる側はご無沙汰しています。
演出やお芝居へのアプローチは、東京乾電池で学んだことの影響が大きいです。その人そのままで演じる方法がとても好きです。
芸人時代の経験は活きていますか?
コントを書いていたので、物語を書くのに抵抗はないです。ただ、ドラマや映画は感情の導線がシッカリしていないとだめなんですが、コントは笑いに走ってもOKなので、そこの悪影響がまだ残っていなくもない…かも(笑)。
監督にとって、この映画はどういう作品になりましたか。
今まで無意識で気づいていたことを、意識できるようになったことで、より繊細に表現できたのではないかなと思います。
映画って、主人公の主観ではない視点で物語を見るものですよね。その視点だからこそ気づく日常の些細な変化を、意識化で表現できた作品です。是非たくさんの方にご覧いただければと思います。
映画『僕らのごはんは明日で待ってる』 http://bokugoha.com/
高校生の時に出会い、付き合い始めた亮太と小春。亮太は無口でネガティブ、小春は太陽のように明るく超ポジティブ。性格は正反対だけど、運命の恋だった。二人が大学生になったある日――突然小春は亮太に別れを切り出す。実は、小春は亮太に言えない秘密を抱えていた。別れの理由がわからないまま、亮太はその後も何度も真っ直ぐな想いを伝えるが、小春はまったく取り合わず――。社会人になり、小春の隠す真実を知った亮太は、彼女のもとに再び走り出す。「上村みたいに、ずかずかと落ち込んでいる俺に入ってくるやつはいない」。出会いから7年、運命の恋が再び動き始める――!
映画『僕らのごはんは明日で待ってる』は、2017年1月7日(土)より全国ロードショー。
出演:中島裕翔 新木優子 美山加恋 岡山天音 片桐はいり 松原智恵子
監督・脚本:市井昌秀
原作:瀬尾まいこ「僕らのごはんは明日で待ってる」(幻冬舎文庫)
配給:アスミック・エース
市井昌秀 監督
1976年4月1日生まれ。富山県出身。漫才グループ「髭男爵」元メンバー。
初の長編作品となる自主映画『隼』(04)が、2006年の第28回ぴあフィルムフィスティバルにおいて、準ブランプリと技術賞を受賞。
長編2作目となる『無防備』が、08年の第30回ぴあフィルムフィスティバルにおいてグランプリと技術賞、Gyao賞も受賞する。
そして同年開催の第13回釜山国際映画祭のコンペティション部門にてグランプリ受賞、 翌年の第59回ベルリン国際映画祭フォーラム部門にも正式出品され、国内外から高い支持を得た。
13年の『箱入り息子の恋』では、第54回日本映画監督協会新人賞を受賞。主演の星野源を第37回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞に導く。
公開待機作に『ハルチカ』がある。
撮影:大村祐里子