ドラマ『ガキ☆ロック』 脚本・大野泰広さんインタビュー

ドラマの脚本は今回が初めてですか?

そうですね、今までは舞台の脚本を書いていましたが、ドラマの脚本は今回が初めてでした。
僕の創作の場である、劇団・東京ミーコの舞台をプロデューサーの河野さんに気に入っていただき、お声がけ頂いたのがきっかけです。原作『ガキ☆ロック』も舞台は浅草ですし、僕も荒川の下町出身なので、入り込みやすかったです。
自分自身が役者というのもあって、読む側としては慣れていたのですが、やはり書くとなると全く別物だったので、皆さんに色々教えてもらいながら、話し合いながら進めて行きました。
実は、最初は1つの映画として脚本を書き上げたんですが、紆余曲折あって12話の連続ドラマになって、全部書き直したんです。僕自身、下町を舞台にした作品を思いっきりやってみたかったので、この作品でその夢が叶いました。

やはり舞台とドラマでは違うものですか。

舞台は、カメラのアップも切り返しもないので、台詞で伝えていくことも多いですが、ドラマの場合は映像で・画でいかにシンプルに魅せるかということが重要だなと。どう印象的なシーンを描いていくかということを勉強しましたね。
僕が持っていった土台に、プロデューサーさんの熱い思いやチーフ監督の中前さんのドラマ作りのこだわりを詰め込んで、みんなで突き詰めたり削ぎ落としたり。

今回は役者としても出演されていますね。

そうなんですよ、最初は自分がここまで出る予定じゃなかったんです。全くそんな気はなかったけど、脚本を書く中で、プロデューサーさんが「折角だから大野くんも出れば?」と言ってくださり、気づいたらその役に配置されていました。
書きながら、撮影しながらの日々。中々ハードでした。だから役として苦悩するシーンは役作りは必要ありませんでしたね(笑)。空き時間は即ファミレス移動で執筆。早くそこから抜け出したくて、書き始めたら終わるまでずっとやっていました。

自分が書いた脚本を現場で役者として挑むというのは、どうでしたか?

やっぱり色々気になっちゃいますよね。あのシーンはどういう風になるんだろうとか、あの役者さんあのセリフ腑に落ちて演じられてるかなとか、色んなことを思いながら自分も芝居するという…正直全然落ち着かなかったです(笑)。
現場では役者として扱ってもらっていたので、僕が脚本を書いているということを他の俳優さんたちはご存知なくて、「後半の台本まだかな?」という会話を聞いてヒヤヒヤしてました。でも実際の現場で俳優さんの演技を見て一緒に芝居してから脚本を書くことで、よりその世界に入り込めたので、書きやすかったです。

プレイヤーとして脚本を書くときのメリット、デメリットは何でしょうか?

メリットは、役者としての立場でも台詞や脚本の流れを考えられることです。監督さんから「ここはこういう風に持っていきたい」という要望があっても、「役者さんは、やりずらいかもしれないですよ」などの提案もできる。
デメリットは…脇役を大事にしすぎちゃうこと(笑)。脇役がどんどん増えたり膨らんでしまうんです。もちろん主人公・メインキャストは大切にしますが、僕自身が脇役人生なので、脇役の面白ドコロが膨らんで本筋がおろそかになりかけることが何度か…(笑)。監督やプロデューサーからは、「面白いけど本筋も進めたほうがいいんじゃない?」と軌道修正されました。どんな小さな役でも、なるべく“いい役貰えたな”って思ってもらいたい気持ちと、ストーリーを進めることの配分は難しいです。

大野さんは元々お笑いをされていたんですよね。

書いて練習して演出をして発表して修正、これを全部自分たちでやるお笑いがベースだったので、役者の世界では、あの頃やってたことが枝分かれして違うジャンルになるんだなとわかりました。
お笑いを辞めて本格的に役者をやろうと活動し始めた頃は、これらの“枠”にぶち当たりました。お笑い芸人ってレポーターもやるしお芝居もやるし作るし、色々やって垣根がないんです。その感覚が普通だったんですよね。
みんな分けたがるんですよ。『お笑いやりたいの?お芝居やりたいの?』『脚本やりたいの?演出やりたいの?』って。僕の中では共通しているんですけど。

役者になろうと思ったきっかけは何だったんですか?

色々勉強したいなと思って小劇場に出るようになったのがきっかけでした。コンビでコントをやっていると、ずっと2人だけの劇団なんですよね。そこに新しい風が欲しかった。
また、お笑いはシンプルで、面白いか面白くないかで判断されます。そこに人物の背景やいいシーンみたいなものは不要なんですよ。でも僕はかつての単独ライブなんかでもそういう“不要とされる部分”を入れ込みたがってた(笑)。お笑いライブだけど最後はジーンとしてもらっていいんじゃない?みたいな。
お笑いコントという枠では伝えらえないものがあったから、お芝居の方にどんどん気持ちが傾きました。

お笑い経験がある故の強みはありますか。

コントっぽいものを書くのは得意ということ。あとは自分の見せ方と踏んだ場数の違いですかね。役者さんより膨大な数滑ってますから(笑)、ハートは強いですよ。
あと、相手のお芝居を受けて返すのも意外と得意ですね。芸人は情に厚く寂しがり屋な人が多いので、相手を活かそうとする人が多いです。どちらかというと、生粋の役者さんの方が個人主義の方が多いイメージがあります。
演出面では、その人それぞれの間を見て活かすのは得意だと思います。作り直しややり直しにもフットワークが軽いですね。面白かったりオイシイならOKだなって思えちゃう。

この作品で大野さんが収穫したものはどういったことですか?

今回は企画立ち上げの頃から関わっているので、裏方の皆さんの大変さが改めてわかりました。準備することの数が膨大すぎますね。この方々に比べたら役者の方がまだ気楽です(笑)。
また、脚本を書くことによって、他の方が書いた脚本や戯曲をより深く読めるようになりましたし、物語を作っていく楽しさを改めて実感しました。苦しいこともあったけど、楽しいことも多く、色んな経験が全部自分に財産として返ってきています。ここから自分が発信するものに活かしていきたいです。

最後に、改めて今作『ガキ☆ロック』の見所を教えてください。

『ガキ☆ロック』は、下町の人情や粋、人との繋がりをどう描いていこうか、というところから始まっています。この作品に携わることで、今まで気軽に義理だ人情だって言ってたことを改めて考えました。
物語は笑って泣けるシンプルなものですが、そのぶん幅広い層の方々に楽しんでいただけるように、みんなで作りました。主人公や仲間たちと一緒に泣いて笑って楽しんでもらえたらと思います。

 


Amazonオリジナル『ガキ☆ロック~浅草六区人情物語~』 https://twitter.com/rock_gaki
浅草生まれ浅草育ちの志村源が仲間たちと浅草を舞台に繰り広げられるヤンキー共のツッパリ純情物語。
原作は、ヤンキー漫画『ギャングキング』で知られる漫画家・柳内大樹氏が、かつて『ヤングチャンピオン』で連載し人気を博した漫画作品。


大野泰広
お笑いコンビ・ハレルヤ解散後、俳優を目指し活動を開始。コメディからシリアスまでこなす演技力は、定評がある。2016年は、NHK大河ドラマ「真田丸」に河原綱家役で出演。カメラテストから役を掴み、40歳のシンデレラボーイとして注目される。自身では、劇団・東京ミーコを拠点に、脚本・演出を手掛けるなど、活躍の場を広げている。

撮影:大村祐里子