イラストレーター いしいのりえさんインタビュー


イラストレーターになったきっかけを教えてください。
絵を描くことも本を読むことももちろん好きでしたが、『作家さんの作品の表紙を飾ること』に強い憧れを持っていました。そこが1番のきっかけです。
イラストレーターになりたい、そこで好きな作家さんの作品の表紙を飾りたいと思いました。そこでデザインの専門学校に行き、23歳くらいから本格的にイラストを描き始めて、自分で営業して、お仕事をいただくようになって…という感じです。

文筆業もされていますが、お仕事での文章とイラストの配分はどれくらいですか。

元々はイラストレーターのお仕事が多かったのですが、最近は出版不況もあってライターのお仕事も増えてきています。6:4くらいでライター業の方が多いかもしれません。
ライターのお仕事をさせていただくようになったきっかけは、仲のいい編集者さんにお声がけしてもらったことでした。官能小説の表紙イラストを描く時には、原稿を読まないと描けません。ですので、官能小説の表紙のお仕事をいただくことでどんどん詳しくなり、『官能小説を女性に紹介するレビューを書いてみませんか?』と誘われました。
自覚はないのですが、チャンスをもらうとそれを形にしたくて仕方がない性分のようです。
「カナタ」の作品ではイラストと小説を担当していますが、いつも小説から取り掛かります。文章を書きながら浮かんでいるイラストをメモして、後で形にします。これは私が元々イラストレーターだからこその技だと思います。今回の担当編集の方にも面白いと言われました(笑)。

書けない時というのがあると思うのですが、それぞれ脱出法はありますか?

私の場合は、イラストはどうにか対処できます。長年の経験があるので、イラストが全く描けない!ということはないですね。
文章が書けない時は、単純に悩みますね。出てこない時は、締め切りと睨めっこしつつ、潔く書かない(笑)。
『あぶな絵、あぶり声』では毎回お願いする声優さんと最初の打ち合わせをするので、その方の人となりや恋愛観、カナタで表現したい世界観などを話してもらってイマジネーションを掘り下げていきます。また、その方々の作品やサンプルボイスを聞いて、声が活きる作品が書けたらなとは思いますね。
今回はゲストの小野大輔さん、日野聡さんから明確に色々とアイデアをいただいたので、比較的書きやすかったです。

女性をテーマにしているのはどういった理由がありますか?

『本の表紙を飾りたい』という目標がベースにあったので、何のイラストなら本の表紙を飾りやすいだろう?と考えたのが一つ。
もう一つは、自分自身も女性なので、一番モチーフにしやすいかなと思いました。日本人女性特有の色気や柔らかさが好きで、浮世絵などよく見に行っていました。
私のイラストは和の印象を受けると言われますが、特に何かを意識しているわけではありません。でも元々好きなイラストレーターさんや画家の皆さんが日本の方々なので、染みついているんだと思います。

恋愛小説と官能小説の違いはなんですか?

その二つの違いは、一番明確なのはゴールが何処かですね。官能小説というのはセックスが主題となっている小説。そうでないものは恋愛小説などですね。
『あぶな絵、あぶり声』も官能的な描写はありますが、ストレートな官能描写はありませんし、セックスを主題としているわけではありません。ですので恋愛小説ということになります。
今回は輪廻転生がテーマにあるので、作中の時代が大正、昭和、平成と3つの時代に分かれています。イラストも資料に忠実に細かく描いてあります。これが結構大変で、丸2日かかりました(笑)。

カナタの作品は小説に朗読も加わることで、また違う世界が広がりそうです。

私が作る文章とイラストによる絵本を肉付けしてくれるのが、3人の声優さんによる朗読です。
自分で思い描いている描写から、さらに一歩踏み込んだ他の方の思想が入るというのは、とても面白い瞬間です。
カナタでお願いするゲスト声優はプロ中のプロの素晴らしい方々なので、何も言わなくても私の意図や文章の意味を深いところで汲み取り、そこにご自身の気持ちなどを盛り込んで肉付けして演じてくださいます。毎回本当に素晴らしいなと感動します。

改めて、今回の『あぶな絵、あぶり声』の見どころを教えてください。

この本は文章、イラスト、デザインどこを取ってもとてもミニマムに書かれていますが、その余白を楽しんで頂ければ。
今回の小野さん、日野さんはとても素晴らしい声優さんですし、演出の岩田さんも何十年もこのお仕事をされています。挿入曲はピアニストの方がオリジナルで作曲してくださっています。
本をめくりながら、CDを聴きながら、それぞれのシチュエーションで楽しめる本です。

 


『あぶな絵、あぶり声〜霞〜』
〈著者〉カナタ
「心の先に身体がある」をテーマに、「愛交ストーリー」を絵と声の両サイドから表現する、イラストレーターいしいのりえと声優岩田光央のコラボユニット。
〈内容〉
大正・昭和・平成、3つの時を紡ぐ恋絵巻。
言葉と絵によるイマジネーション、人気声優による録りおろし朗読CDを同梱し、聴覚への刺激が、あなたを深い「愛交ストーリー」の世界へと誘います。
【登場声優プロフィール】
■小野大輔 代表作:『ジョジョの奇妙な冒険』(空条承太郎)、『黒執事』(セバスチャン・ミカエリス)など
■日野 聡 代表作:『バクマン。』(高木秋人)、『NARUTO』(サイ)など
■岩田光央 代表作:『AKIRA』(金田正太郎)、『トリコ』(サニー)など


いしいのりえ
10月28日生まれ、東京都出身。
イラストレーター、ライター。女性の美しさや柔らかさをイメージさせる、物語性を重視した作品を描いている。
新堂冬樹、小池真理子、内田康夫氏などの作家の他、団鬼六、館淳一、神崎京介などの著名官能作家の装幀も多数手掛けている。
NHKドラマ「よる☆ドラ 『眠れる森の熟女』」OP・EDイラスト担当。2014年に初著書「女子のための官能小説」、2016年「性を書く女たち」を刊行。2017年刊「anan『官能の流儀』」へ寄稿。
ドルチェスター所属。

撮影・文:ヒカリグラフ