映画『食べられる男』主演・本多力さん&近藤啓介監督 対談


本多さんをこの役にキャスティングした理由は?
近藤 元々キャラクターはある程度出来上がっていて、そのイメージに合う方をオーディションで探しました。そこに本多さんにも参加いただいたんです。リアクションや表情だけを重視して、面白い方を探していました。本多さんのことは勿論前から存じてましたが、まさかオーディションも来てもらえるとは。逆に緊張しました(笑)。本多さんだったら色々広げてもらえるだろうなと思ったのが決め手ですね。
本多 能面みたいな顔、とはよく言われるんですよね(笑)。表情が豊かなタイプじゃないので。オーディションの時は、七三分けで分厚いメガネをかけてたんですけど、実際はあんな感じでした。それで人物に癖を作ろうとなったんです。
近藤 おちょぼ口ですね。漠然とですが、本多さんにおちょぼ口なイメージがあったので。
本多 ええ!?そうかな。この役の後に(おちょぼ口を)するようになった気はする。役に癖を作るっていう試みは初めてでした。

全体的に主人公の描き方がリアルで、特に生活音がギクっとしました。

近藤 宇宙人が出てくるありえない設定なので、逆に普段の生活をどれだけリアルに描くかを意識しました。部屋もかなり生活感を漂わせて、キャラクターに合わせて作りこみました。
本多 僕、あんなに音立てて食べてる?
近藤 あれは多少誇張してますよ!音を足してはないけど、音量調整はしました。
本多 でも確かに『クチャクチャ食べるように意識してください』とは言われました!おちょぼ口のまま食べてと。美味しそうには食べないように、モソモソと食べました。撮影自体は、工場のシーンから始まってその後部屋の撮影だったので、村田の生活を想像しやすかったです。
近藤 あの工場から始まったことで、みんなあの作品の世界を一発で把握してくださったと思います。
本多 普段はストーブらしいんですが、撮影のためにドラム缶で薪を焚いたので、顔や鼻の穴が真っ黒になりました(笑)

孤独な男の生活はどうでしたか?

本多 クリームを塗ったりするシーンはずーっとカメラが回ってたんで、地味に苦しかったですね(笑)。
近藤 止めずに続けましたからね。15分くらいずっと回して、いいところを使う。スタッフみんなでその間ジッと耐えて、カットの瞬間に笑ってました。
本多 演技として淡々と一つ一つ演じるのは、意外と楽しかったです。演技としては(笑)。あの淡々とした感じで生き続けるのはしんどいだろうけど。途中で時光陸さん演じる木下くんと距離が近づいてすごく喋るシーンがあって、本来はこういう人なんだろうなと思いましたね。話す相手がいないだけで話さないわけじゃないというか。そういう人もきっといるだろうなって。
近藤 どうしようもなくツイてない人っていると思うんですよ。その人は全然悪くないのに、不幸が降りかかる人。そういう人の映画を作りたかったんです。

撮影はどういう順番で行われたんですか?

近藤 脚本の上で大切なポイントを5つくらい決めて、そこの撮影順序は絶対に前後しないように組みました。
本多 食べられる役、というのは初めてだったので、日に日に追い詰められて辛くなりました。死ぬというのとはまた違うというか…食べられることの不気味さに参りました(笑)。
近藤 途中で村田が幸せな日々を送るところは、本多さんも楽しそうでしたよね?
本多 あそこは普通に楽しかった!(笑)
近藤 それまでツイてなかった分、ちょっとした幸せが散らばってるだけで、村田にとってはめちゃくちゃ幸せなんですよね。

食べられるということが、グロテスクさや悲痛さはなくポップに表現されていて新鮮でした。

近藤 特にポップに見せようというつもりはなくて、とにかく見やすくしようと心がけたんです。中盤からどんどん主人公の心情が変わっていくことにフォーカスしたかった。また、設定をシンプルにすることによって、人によって見方が違う作品にしたかったんです。多角的な見方をしてもらえたらなと思って。この作品の中では、『国家は「宇宙人に食べられる」ということに関して辛いことではない・むしろ名誉だと思っている』という設定にしました。また、宇宙人がどういう人を食べたら美味しいんだろう?というのも、漠然とした理由の方が面白いかなって。しかも食べるのは1人でいいんですよ。いっぱい食べたいわけじゃないらしい。
本多 『一方的に侵略してきた!』じゃないもんね。宇宙人も3人しかいないし(笑)。ちなみに、地球が彼らに抵抗して戦うとかは考えなかったの?宇宙人にしても地球人を見つけて、追いかけて捕まえるとか…
近藤 それをやるには予算が足りないですね(笑)。でも、結局は人間ドラマを描きたかったので、あんまりそういうことは考えてなかったな。
本多 食べられるまで一週間にしたのは何故なんですか?
近藤 それまでの心の動きを表現するにはちょうど良いかなと思ったんですよ。すぐ食べられるより、猶予があった方が絶対面白くなる。食べられるまでが面白い話なので。3日だと短いし、1ヶ月だと長いから、一週間くらいがちょうど良かったんです。

“8400”って笑いませんでしたか?

近藤 実はオーディションであのシーンだけやってもらったんですよ!「8400」だけのリアクションを見ようと思って。実際本多さんは笑ってましたよね。
本多 そうだね(笑)。いきなりそれだけ言われたんで笑っちゃいました。劇中でも本当は笑っちゃいそうになってるんですけど、そこは踏ん張りました。
近藤 脚本は、いつも仲間の小村くんと書いているんですけど、僕らが面白いと思うものが入ってるんですよ。2人で笑ったことが残ってきている。
本多 2人が現場でキャッキャしてることが全然理解できないことも多々ありました(笑)。何がそんなに面白いんだ?ということにケラケラ笑ってるし、そこに入ろうとしても意外と入れてくれないし…
近藤 いやいや!拒絶とかじゃなくてちゃんと仕事しなきゃって思うからですよ!

改めて見どころなど教えてください。

本多 この作品『食べられる男』は、村田を中心とした半径数メートルの関係がとても面白く描かれています。村田と周囲の双方が螺旋状に干渉しあって変化していきます。見た方によって感想が全然違うのも面白いところ。上映中は僕も監督も毎日会場にいる予定ですので、是非捕まえて感想を聞かせてください。
近藤 卒業してすぐ撮影した映画で、これまでの自分とこれからの自分を全部詰め込んでいます。僕と小村くんが何を面白いと思い、どういう映画を作りたいかが詰まった自分たちの名刺になる作品です。
本多 実は近藤監督も役者で出てます。また監督のお芝居が上手いんですよ!是非見つけてください。

 
©食べられる男製作委員会
映画『食べられる男』 http://www.europe-kikaku.com/taberareruotoko/
地球平和のために作られた条約「地球人被食制度」により、1週間後に宇宙人に食べられることを告げられた工場員の村田よしお。彼の疑問はただ一つ「僕なんて、美味しいのかな?」。その日から、宇宙人に美味しく食べられるためにクリームを塗り、ヘッドギアをつけ、下ごしらえを始める村田。時を同じくして突然できた友達・木下、生き別れた娘に会いに行くとお金の話ばかりする元嫁、そして人懐っこい女の子ゆきちゃん——それまで友達、両親、家族のいない孤独な日々を過ごしていた村田は、様々な出会いを経て、宇宙人に食べられるまでの悲しき1週間をどう過ごすのか?
2017年4月29日~5月5日、新宿 Kʼs cinemaにて限定公開決定。


本多力(写真左)
1979年京都府生まれ。立命館大学在学中の’99年からヨーロッパ企画に参加、以降全ての作品に出演。主な出演作に『バクマン。』(映画)・ 『サマータイムマシン・ブルース』(映画)・ 『しあわせのパン』(映画)・『コドモ警察』(映画/テレビ)『真田丸』(テレビ)・『闇金ウシジマくんseason3』(テレビ)・『家売るオンナ』(テレビ)・『ドラゴン青年団』(テレビ)、muro式.(舞台)・ドリス&オレガ『COASTER2017』(舞台)などがある。

近藤啓介(写真右)
1993年大阪府生まれ。2011年、映画監督を志し大阪芸術大学芸術学部映像学科入学。共同監督した『小村は何故、真顔で涙を流したのか?』が第17回京都国際学生映画祭長編部門にてグランプリを受賞。翌年、大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業制作『APOLO』を監督。今作が3本目の長編映画となる。

撮影:大村祐里子