森義隆監督 映画『聖の青春』インタビュー
今作は、制作期間が8年なんですね!
8年、かけたくてかけたわけではないんですが(笑)、結果的に良かったことも多いですね。この時期に完成すべくして完成した映画なんじゃないかと。8年前だと東出くんが俳優ですらないし、松山くんも22歳ですし。この映画が30歳の松山くんを待っていた、と捉えてもいいのかもしれません。
当初は徹底的に村山さんという人物の内面にフォーカスするつもりだったのですが、段々周りにいる彼を愛して支えた人たちにも目がいくようになりました。8年は必然な時間だったと思います。
本当の瞬間にこだわったということですが、それはどういうところでしょうか。
この作品を2時間にまとめるにあたり、村山さんの人生の中で、やはり最後の羽生さんとの対局を最高潮に描くように持っていかなきゃいけないと考えました。役者の表現力や技術を超えた『魂』のようなものを撮る。それは演技を超えて松山くん自身の魂も映り込まないといけないわけです。30歳の松山ケンイチが自分の命を燃やす瞬間と、村山さんが人生を燃やし尽くした瞬間がバチン!とぶつかる瞬間が撮りたかったんです。
最後の対局は緊迫したシーンでしたが、実際はどのように撮影されたんでしょうか?
あの対局室にはカメラマンしか入らない状況にして、3時間くらい、一度もカットをかけずにカメラを回し続けました。駒を並べるところから、最後の「負けました」まで。
そういう撮り方をしたいと提案したのは、そのシーンを撮影する4日前でした。彼らが『役者として存在しつつ、一旦全てを忘れて、生身で役と一緒に深い思考の海に潜る』ということをできるかどうか、直前まで確信を持てなくて。彼らもそんな経験ないでしょうし…。そんな未知のアプローチを彼らに『やりたいか?』と聞たら、「絶対にやりたい」と言ってくれました。
松山さんと演技に関してセッションはありましたか?
今回は、松山くんと村山さんの仲人のような感覚でした。
僕がどうしたいというのではなく、松山くんがどうやってくるかを見つめ、それを村山さんの人生と繋いでいく作業をしていました。
映画を撮られる前はドキュメンタリーを撮っていらっしゃいましたが、今も演出等にその影響はありますか?
そうですね、大いにあると思います。ドキュメンタリーって思い通りになることは一つもないんです。なんとなくの筋書きを想像しながら撮っていても、その通りになることは一個もない。それをどこまで楽しめるのか、瞬間的に物語を再構築できるかを求められます。鍛えられましたし、自分に染み付いてるものでもあります。
役者の生の輝きって、役を演じきる・表現しきるというだけではなく、彼ら自身が生きてくれることがカメラに収められるってことだと思います。今回松山くんと出会ったことで、監督として役者に求めるレベルをもっと上げていきたいなと思わされました。作りこむということとドキュメンタリー的な一回性を同時に求めてもいいんだと。松山くんが僕の想像を越えてくれたおかげです。
音が印象に残る作品でもありました。
会話もそうですが、駒を指す音も会話になるように、細かく調整しました。実際の対局室の静寂ってかなりインパクトがあるんです。本当にその場にいられない無音の圧がすごいんですね。それを映画でも表現できたらなと思いました。
音楽の半野さんには、シーンに対しての音楽はつけず、画面には映っていない、時間と空間を越えたものに音楽をつけてもらうようにお願いしました。自分の狭い解釈を村山さんの人生に対して行うことは失礼な気がしたんですね。松山くんの体を借りて村山さんの人生を静かに誠実に見つめ続け、それをそのまま、お客さんを信じて投げかけてみたかった。どこでどう感じてほしいというような演出は極力排除しています。
監督がこの作品を撮る上で一番大切にしたものはなんですか?
僕がずっと意識しているのは、役者の小手先の技術や演技力を超えたところに何が見えるか。それには脚本が必要だし、演出も必要です。でも、しっかりした脚本があって、きちんと演出をつけたその先に、撮りたいものがあるんです。僕は『演出の向こう側』と呼んでいるんですが(笑)。演出をサボるという意味ではないですよ!演出はきちんとした上で、役者がしぼり出してくれるものを探しているんです。それはこちらの想像を絶するものであってほしい。僕の希望です。
映画『聖の青春』 http://satoshi-movie.jp/
11月19日(土)丸の内ピカデリー他全国公開
出演:松山ケンイチ 東出昌大 染谷将太 安田 顕 柄本時生 鶴見辰吾 北見敏之 筒井道隆 /竹下景子/リリー・フランキー
監督:森義隆『宇宙兄弟』『ひゃくはち』 脚本:向井康介『クローズEXPLODE』『陽だまりの彼女』
原作:大崎善生「聖の青春」(角川文庫/講談社文庫刊)
主題歌:秦 基博 「終わりのない空」 AUGUSTA RECORDS/Ariola Japan
森 義隆 監督
1979年2月15日生まれ、埼玉県出身。08年 『ひゃくはち』で映画監督デビュー。同作で、第13回新藤兼人賞銀賞、第30回ヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞。12年公開『宇宙兄弟』が大ヒット、第16回プチョン国際ファンタスティック映画祭でグランプリ、観客賞をダブル受賞。テレビ、映画、舞台と幅広く活躍する。
撮影・文:ヒカリグラフ