演出家 桑原裕子さん 舞台『痕跡(あとあと)』インタビュー
舞台『痕跡』、初演は青山円形劇場(すでに閉館)で公演されていますね。
はい。閉館が決まって残念でしたが最後にチャンスをいただけたと思い、劇場に対しての感謝も込めて円形劇場を生かした作品にしようと『痕跡』を書きました。
小劇場の作り手・俳優たちにとって円形劇場は特別な場所の一つでした。
今回、舞台『痕跡』の再演にあたり、変わったところはありますか?
シアタートラムは、劇団KAKUTAが今まで一番使わせていただいた劇場なので、ホームのような感覚があるんです。
今回、そのシアタートラムでの公演になったことで舞台美術も一新され、演出も一から作り直すつもりで変えました。舞台美術は川の終着点に溜まっていく漂流物をイメージして作られています。
円形劇場での公演から引き続き、抽象的な空間にすることで一瞬にしてさっと舞台が変化していきます。最小限の道具で世界を広げていく、という試みです。
来年、劇団発足から20周年を迎えられますね。
実は、今回の『痕跡』の再演は20周年の幕開けを意識しています。
20周年を迎える第1段として、今までの集大成であるこの舞台『痕跡』あります。それから来年の秋に向けて、「これまで」と「これから」を発表していく予定です。
もうすでに始まっているんですね。
そうなんです、少し先駆けています(笑)。
『痕跡』で第18回鶴屋南北戯曲賞をいただいたことがとても大きなきっかけになりました。受賞がなければ再演はまだやってなかったと思います。
また、ありがたいことに、初演のメンバーがほぼ揃うという幸運もありました。
20周年を前に、この作品を・このメンバーで・シアタートラムで公演できるという、KAKUTAにとって象徴的な符号がたくさんある記念すべき公演です。
20年間ってすぐには想像つかない長さですね。
そうですね~!若い俳優さんたちから『(KAKUTAを)知ってます!』と言われると、未だにびっくりします。
20年もやっていればある程度そうなるのは当然かもしれないんですが…(笑)。
“ようやくここまで来た!”というより、“いつの間にここまで!?”という感覚です。
劇団員の方々の関係性などは変化はあるんでしょうか?
10年、20年とずっと一緒にいるので、お互いに飽きとの勝負みたいなところはありますね。
劇団稽古で、エチュードや普段の稽古ではやらないような実験的なことをしますね。夫婦の長続きの秘訣みたいに(笑)、色んなアプローチを試したりします。
まだこういう顔があったんだ!と見つけることで次の作品に繋がることも多いです。
桑原さんご自身の中で、大きなターニングポイントのようなものはありましたか?
30歳の時に『甘い丘』という作品を書いたのですが、そこで“青春との決別”をしたことが、第3期KAKUTAの始まりでした。そこが一番大きく変わったポイントだった気がします。ずっとそれまでの青春群像劇を続けていくことはできたと思うんですが、自分で一度終わりにしたかったんですね。
等身大を素直に舞台に乗せる良さ、というのは確かにあります。ただ、ある時から『5年先でも再演できる舞台を作りたい』と思ったんです。そうしたら自分がきちんと大人にならなければならないとわかりました。色褪せない、普遍的なテーマをきちんと見つめたいなと思うようになりました。
まさにこの舞台『痕跡』は、色褪せない舞台ですね。
そうですね。
色んな事件や事故があって、何が起こるかわからない世の中で、いつ芝居ができなくなるかわからない。いつ何もかもが変わってしまうかもわからない。その中であえて芝居をやっているんだと気づいて、やりたいことが変わってきたような気がします。
桑原裕子 YUKO KUWABARA
「KAKUTA」主宰・脚本家・演出家・女優。劇団では、劇作・演出を兼ね、俳優としては結成以後ほぼ全作品に出演。
クリエーターとして、2010年映画「ランブリング・ハート」脚本、2010~13年には『ピーターパン』の潤色・作詞・演出、山下達郎「クリスマス・イブ 30th ANNIVERSARY EDITION 」初回限定DVD脚本など。
女優としても長塚圭史演出『冒した者』、白井晃演出「ペール・ギュント」、「クレバリーホーム」TVCMに出演するなど、多方面で活躍。
07年、劇団作品『甘い丘』で岸田國士戯曲賞に初ノミネート。同作再演で09年第64回文化庁芸術祭・芸術祭新人賞(脚本・演出)を、14年の劇団作品『痕跡』で第18回鶴屋南北戯曲賞を受賞。
『KAKUTAは実直に大きくなり続けているので、依然“成長株”の劇団です!
KAKUTA第26回公演 『痕跡《あとあと》』http://www.kakuta.tv/atoato2015/
2015年12月5日(土)~12月14日(月)三軒茶屋シアタートラムにて
ある嵐の夜に起きた3つの事件。中年男は自殺未遂を図る。幼い少年は轢き逃げ事件に見舞われて行方不明となる。それらを目撃したバーテンダーは直後自らの目を負傷した。この日の出来事がすべての物語の始まりだった。
それから時が経過し、少年の母親はひき逃げ事件の真相を知ろうとあらためて調査を開始する。それに協力する男、彼女を心配する元義妹。新しい生命の誕生を心待ちにする一組の夫婦。クリーニング店に勤務する男とその息子。
それぞれの日常、それぞれの人生。それらの生活が嵐の夜の事件を中心に交差し、ぶつかり合ったとき、彼女ら/彼らの人生は大きなうねりとなって動き出す……