『CALENDER FILMS』URCHIN FARM&榊原監督 鼎談

12ヶ月連続無料配信というとんでもない企画が産まれたきっかけは?

師崎 僕らURCHIN FARMというバンドは曲を大事にしていて、曲を聴いてもらうということを第一に活動しています。もっと多くの方に曲を聴いてもらいやすくするためにはどうすればいいか。『CDを出してツアーをやる』という通常の流れを1回やめて、とりあえず無料で配信という形をとっていい意味で間口を広げてみてはどうか。でも1曲ポーンと無料配信、だけだと面白くない、何か新しいやり方はないのか?と模索していました。ただ配信するのではなく、どうせなら1年間毎月連続でやってみよう、と。すると曲を作る上でさらに季節、時の流れというコンセプトが加わるので、曲の作り方も変わってきました。

この計画を聞いて、どう思いましたか?

矢澤 無謀ですよね(笑)。でも確かに、自分たちにできることってそんなにないんですよ。曲を出して、ライブツアーをやって…その繰り返し。リスナーも出されたものをまとめて受け取るだけ。色んな人に自分たちの曲を知って聴いてもらおう!と沢山案が出ましたが、その中で『1年間毎月無料で配信』がパンチがあった。アルバムって12曲くらいですから、そう考えるとおかしなことでもないなと。でも普通アルバムを買うまでわからない曲がありますが、この企画はそうはならない。レコーディングにしても、ある期間にまとめてするのではなく、1年間ずっと作品を作り続けることで、何か変わるのかなと。思ってたより大変でしたけど(笑)。

映像化しようとなってからの流れはどういうものだったんですか?

榊原 CALENDER FILMSの企画をもらったのは最初の曲ができた後で、その先2ヶ月分の曲がなんとなく形が決まってきたかな?という頃でした。
師崎 無料配信だけではなく、もっと何か仕掛けたいと悩んでいた頃、榊原監督との出会いがあったんです。『曲が映像になるのって面白い!』と純粋にワクワクしました。1年を通じて音も画も季節が反映されていくわけです。
榊原 皆さんにお会いする前に、まずメンバーのブログやSNSをチェックしました(笑)。
師崎 おおー!そうだったんですか。
矢澤 それは今初めて聞きました!ちょっと恥ずかしいな(笑)。
榊原 そこで彼らの意図や人間性を自分なりに推測し考えて、大まかなプロットを見てもらいました。その後初めて師崎さんにお会いして、共有している思いががっちりリンクしたことで完全に意気投合しました。

映像⇄曲の相互作用はありましたか?

師崎 ありました!むしろその相互作用こそ、CALENDER FILMSという企画の狙いでした。榊原監督の映像という外的な要因があり、1曲ずつリスナーの方のリアクションを受けて毎回曲を作っていました。かなり多大な影響でした。
矢澤 何が起こるかわからない中で、聴いてくださる方の“こういう曲が聴きたい”という声や、自分の中のやりたい方向性もあるわけですが、そこも汲み取ってくれるはずだと信じて榊原監督やモロにお任せしていました。色んな人の意見が混ざって何が出てくるのか、一番楽しみにしてたかも。それを受けて自分も毎月成長していったと思います。

今回は楽曲先行の短編映画ということですが、普通のPV制作との違いはありましたか?

榊原 師崎さんに最初にお会いした時、一つずつの楽曲についてではなく、企画の意味やお互いの人生観や哲学がリンクしたので、その部分をストーリーにしました。そこが自然と楽曲と結びついたんです。
師崎 全体的な企画の意思、日常にある『音』『声』『音楽』が映像になった、という感じです。
榊原 特定の楽曲をテーマに短編映画を作るという試みはこれまでもあったと思いますが、今回はCALENDER FILMSという12曲配信の企画そのものを映画化するということなので、一曲一曲の世界観よりは、企画全体への想いがどういうものかが重要でした。それぞれ一つの曲として聴いていたものも、この映像を通して聴くことで今までとは違う聴き方がでるようになればいいなと考えていました。
矢澤 珍しい試みだと思います。僕もまだ上手く説明できないことも多いです(笑)。『映画を作った』はちょっと違うし、『挿入歌を担当した』も違うし…でも脚本を読んで歌詞を書いたところもあるし。まさしく、『CALENDER FILMSという新しい試み』でした。

1年間撮り続ける中で、難しかったところなどはありましたか?

榊原 作品を作る上では、複雑な難しさはなかったですね。それくらい、初対面時で互いの感性が合ってる実感があったので。確かに1年間通してのことなので途中どうなるかわからない恐れもありましたが、多少の変更はあれど大筋はブレずに完成しました。むしろ心配だったことは、ファンの方に受け入れてもらえるどうかでした。半分くらい完成した頃にイベントにお邪魔して、ライブを楽しむお客さんの様子を見てマーケティングみたいなことをしたりもしました。そこで“きっと大丈夫だ”と確信できました。
師崎 こちらが監督サイドに特定の希望を出すことはなくて、曲を聴いて影響を受けたものを自由に映像化してもらいました。そこに意味があると思ったので。
榊原 キャストの皆さんも撮り方も変わっていきましたね。役者自身が役そのものに近づいてきていて、カット割りをこだわったり作品を見せる撮り方よりも、芝居に寄り添って撮影できるようになりました。

5/2にイベントで上映がありますが、この先どこかで公開予定はありますか?

師崎 5月3日の夜20時から、Youtube上で公開する予定になっています。でも上映する機会は今のところ考えていません。
矢澤 もったいないですよね。この12曲も短編映画も。お客さんからもたくさんお声は頂いているので何かできたらいいなと思いますけど…
師崎 せっかくだから、何かやりたいですね。ちょっと色々考えてみます!

改めてWebアルバムと、短編映画の見どころをそれぞれ教えてください。

師崎 CALENDER FILMSというタイトルにも仕掛けがあって、カレンダーの本当の綴りはCALENDAR、“AR”なんですけど、『当たり前の日常をカレンダーを1枚1枚大事にめくりながら暦の上を歩く人』みたいな意味を込めて“ER”にしています。大人になると1日の区切りが曖昧になることが増えますが、もっと1日1日のしおりをつけていってもらえたらという願いを込めました。その中で、毎月1日は新曲リリースの日=特別な日になっていたらいいなと。そのコンセプトが更に映像になったので、とても嬉しいです。
矢澤 1年間を通して曲を作っていくと、自分も曲も歌も成長するんだなと気づきました。今最初の曲を聴くと若いなって反省したり。でも反省できるのって、それに気づけるまで成長したということなので、確実に自分のためになりました。12曲作り終えた今満足しているかというと、実は意外と物足りなくて(笑)。もっと色々やりたいことや発見が出てきました。カレンダーをめくり終えた次のページがどうなるのか。どんどん次に繋げていきたいですね。
榊原 CALENDER FILMSの軸を見つけて1年間向き合うと、世界の見え方が変わってくる実感がありました。具体的に言葉で説明するのは難しいのですが、四季折々の風景や音・空気を大切にしました。その一瞬一瞬が見ていただく方に伝わるといいなと思います。作品の最後の曲のタイトルがまさに『CALENDER FILMS』なんですが、師崎さんが僕を始め役者さんたちにも1年間のヒアリングをして完成した曲です。映画の最後にこの音楽を当てはめた時、これで完成だという確かな実感がありました。自分自身も感性が磨かれましたし、この作品でそれを共有できたら嬉しいです。是非、最後の最後まで楽しみにご覧ください。

 
『CALENDER FILMS』 https://soundcloud.com/urchinfarm
12ヶ月連続無料配信(2016年6月1日〜2017年5月1日)をすることによりwebアルバムを完成させるという企画。それがCALENDER FILMS。そしてそのwebアルバム名も『CALENDER FILMS』。
通常、リスナーは出されたアルバム、曲をまとめて受け取るだけになってしまうが、そうではなく、季節や時の流れを感じながら、そしてリスナーの声を聞きながら一緒にアルバムを完成させていきたいというメンバーの想いから実現した新しいスタイルのアルバムである。
現在、Soundcloudにて完全無料視聴&DL可能。
CAST:山口真季/木村文哉/夕帆/横田ひかる/龍健太
監督:榊原有佑
企画・製作:URCHIN FARM/andpictures


URCHIN FARM(写真左:師崎/写真中央:矢澤)
1999年、大学の同級生で結成。インディーズ、メジャー、活動休止期間など様々な時期を経て2014年活動再開を果たす。
特徴はGt.師崎の痛快なPOPセンス、胸を締め付けるようなメロディーとVo.壮太の繊細で綺麗な声。アッパーなバンドサウンドで『泣き』と『笑い』をハイブリッドに体現する『泣きながら笑える音楽』をコンセプトにするギターロックバンド。
完全自主の活動ながら各業界を巻き込んだ活動が期待されている。

榊原有佑(写真右)
2013年、初監督を努めた短編映画「平穏な日々、奇蹟の陽」はアジア最大の国際映画祭「ShortShortFilmFestival2014&Asia」JAPAN 部門にノミネート。
2016年、JリーグFC東京の2015シーズンを追ったドキュメンタリー映画「BAILE TOKYO」を公開する。
2017年には初の長編劇映画「栞」の撮影を控えている。

撮影:大村祐里子