迷える時代のスタンド・バイ・ミー『スイス・アーミー・マン』

【あらすじ】
無人島に漂着した青年が孤独のあまり自殺を試みていたところに一人の男性が流れ着く。青年は狂喜して駆け寄るも男性はすでにこと切れていた。しかし再び絶望した青年を横目に死体は腐敗ガスの噴射でジェットスキーのように大海原に飛び出していく。あわてて背中に飛び乗る青年。一人と一体の大冒険が始まる…!

ダニエル・ラドクリフ君といえば「ハリー・ポッター」撮影中はイメージを守るため他の映画への出演が認められなかったというエピソードがあるけど、晴れて自由の身になってからは溜め込んだ鬱憤を解消するがごとく様々な役柄に果敢に挑戦している。
馬に性的興奮を覚える男、突然頭に角が生えてくる男、そしてド畜生の大金持ち…そして今回は「スイス・アーミー・ナイフ(十徳ナイフ)さながらの便利機能を搭載した死体」という「ハリポタ」時代からのファンを完全に振り落とす役柄を生き生きと演じている(死んでるんだけど)。
一方の青年役は風変りな役を演じさせたらハリウッド若手ナンバー1のポール・ダノ。思えばラドクリフくんはポール・ダノみたいな俳優になりたいのかもしれない。

火を噴く、弾を撃つ、海を泳ぐ…
とにかく万能な腐敗ガス噴射、雨水を貯水するウォーターサーバー機能など、見てるだけで楽しい十徳死体を使って必死にサバイバルする映画だと思って観に行ったんだけど、わりと序盤から思ってもみない方向に話が進んでいくので驚いた。
具体的には死体に備わった「とある機能」をきっかけに青年がこれまでのパッとしない人生を取り戻すべく奮闘する青春ドラマに発展するんだけど、この「とある機能」が観客をふるいにかける気がしなくもない。
「万能死体と一緒にサバイバル」というあらすじの時点で十分にふるいにかけられてるとは思うけど、歴戦の映画戦士たちには果たしてどう受け止められるだろうか。
個人的には「最初は面食らったけど、終わりよければ全てよし」としたい。観客全員を置いてけぼりしながら笑うしかないラストに添えられる「What the fuck…(なんなの…)」という目撃者のセリフがそのまま観客の心情を表していてよかった。


青少年の冒険+死体というもはや現代版「スタンド・バイ・ミー」とも言える(言えない)今作。(片方死んでるわりに)生命力に満ちた異色の青春ドラマをお楽しみください。

おだかやすゆき
昼は会社員/夜も会社員/座右の銘は「狼は生きろ、豚も生きろ」
つらい仕事の合間に楽しい映画を観て感想を書きます。
好きな映画は「人間はガンガン死ぬけど動物と子どもは絶対に助かる」映画。
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