吉田康弘監督 映画『バースデーカード』インタビュー

最初に脚本を書き終えられた時のお気持ちはいかがでしたか?
僕は、映画づくりの中で脚本はあくまでも設計図だと思っているんですね。なので、脚本を書き終えた時も、「書き上げたぞ!」という感じではなかったです。
今回は特に原作等がないオリジナル脚本ですから、あえて余白の多い台本にしておいて、行間や具体的なディテールは、衣装合わせや現場でみんなと埋めていきました。役者陣やスタッフさん達にも「意見があったらいつでも言って下さい」と伝えて、撮る直前まで、いつでも書き換えられるようにしてあったんです。

橋本愛さん、ユースケ・サンタマリアさん、宮﨑あおいさんへのそれぞれの印象を教えてください。

橋本愛さんは、影があったり、心に何か抱えた難しい役が多かった印象があるのですが、今回、敢えて等身大の「どこかにいそうな女の子」をお願いしました。どんな感じなんだろう?と楽しみでした。伸びやかな表情や、親近感を覚える笑顔など、新しい女優としての橋本愛さんをお見せできるのではないかな?と思います
宮﨑あおいさんは、まだお母さんの役が定着されていない中でのオファーでした。子供とのお芝居では、台詞だけではなく、言動にも一つ一つに母性が溢れていて、違和感なく「本当のお母さん」に見えました。夫であるユースケさんの前では弱音を吐いたりすることで、かっこいい完璧なお母さんではなく、普通のお母さんなんだという表現をしました。スタッフも引っ張られるほどの凄い集中力でお芝居をされて、仕事を忘れて皆涙してしまうほどでした。
ユースケ・サンタマリアさんは、実はこの作品で一番のキーパーソンなんです。物語がウェットに、悲しくなりすぎないようにする為に、懐の広い父親をお願いしました。ユーモア溢れる方で、須賀健太くん演じる弟とのシーンなんかアドリブも盛り沢山で楽しませてくれるけれど、一方で家族のことを想って時折見せる切ない表情はハッとさせられる、俳優としての魅力に溢れた方でした。

ロケ地もとても印象的でした。

当初は舞台を架空の街にする予定だったのですが、ロケハンで諏訪湖に一目惚れしたんですね。どこからでも見える、空を写す諏訪湖の表情や、坂道があり立体的に撮れる地形など。夏の暑い日でも心地の良い風が吹き抜ける場所で、透明感があり、神秘的な印象もありました。
ピクニックのシーンの霧ケ峰高原は、名前のごとく普段は霧が立ち込める場所で、ロケハン時にもスタッフからは反対されました。重要なシーンで、スケジュールもタイトで、ここは避けましょうと。でも偶然ロケハンで見た晴れた霧ケ峰高原が素晴らしくて!もうここしかないと、勝負に出ましたね。本番も奇跡的に霧が晴れたので、あのシーンをあそこまで完成させることができました。
今回の作品は、そういったロケーションを味方につけることに大成功したなと思います。天候も含め、映画の神様に愛された作品だなと。

現場で起こった素敵なエピソードはありますか?
エキストラの皆さんに多大なご協力をいただきました。
最初は人数が集まるか不安だったのですが、沢山の方に来ていただけて、うれしかったですね。
特にお祭りのシーンは、普段は屋台が狭くて出せない場所に屋台を出店させていただき、バスが通るたびにその屋台をみんなで都度縮ませる、といった大掛かりなわがままにも応えていただきました。
お陰でとてもいいシーンを撮ることができて、本当に感謝しています。

改めて、この作品の見所などを教えてください。
この作品は、涙の質にこだわっていて、暖かい涙、幸せの涙であるように意識しました。
「母娘がテーマのお話」と限定されるイメージがありますが、父親目線でも楽しんでいただけます。試写でもユースケさんに感情移入したという声がとても多かったです。もし家族が亡くなってしまっても、家族の関係は続く、ということを感じていただけたら。今回はその繋がりを、バースデーカードというツールを使って表現しています。
また、「蒼氓」がテーマでもあります。誰もがみんな、自分の人生を生きていくそれぞれの人。そのそれぞれの人生の中にも沢山のきらめきや素敵な瞬間がある、ハイライトがあるんだと感じていただけたら、より楽しんでもらえるのではないかと思います。

 

映画『バースデーカード』 http://www.birthdaycard-movie.jp/
誕生日に毎年届く、亡き母からの“バースデーカード”。それは、最愛の娘の成長を見守ることが出来ないことを悟った母が、ありったけの愛を込めて綴った未来の娘への“手紙”…。
バースデーカードを通して成長していく娘・紀子を演じるのは若手実力派女優・橋本 愛。紀子が10歳の時に若くして病死し、バースデーカードを書き残す母・芳恵に宮﨑あおい。家族を温かく見守る紀子の父・宗一郎にはユースケ・サンタマリア。一家のムードメーカー的存在の紀子の弟・正男に須賀健太。
個性豊かな実力派俳優が集結し、この秋スクリーンで観る者の心を温かくし、爽やかに涙する映画が誕生しました。


吉田康弘
1979年7月5日生まれ、大阪府出身。井筒和幸監督作品『ゲロッパ!』(03)の現場に見習いとして参加し、映画の世界へ。その後『パッチギ!』(05)、『村の写真集』(05)、『雨の街』(06)、『嫌われ松子の一生』(06)などの制作に参加。『キトキト!』(07)で監督デビュー。型破りな母子の物語として話題に。主な作品に『ヒーローショー』(10、脚本)、『黄金を抱いて翔べ』(12、脚本)、『旅立ちの島唄~十五の春~』(13)、『江ノ島プリズム』(13)、『クジラのいた夏』(14)や、TVドラマ「埋もれる」(14/WOWOW)、「びったれ!!!」(15/tvk他)等。
『銀杏BOYZさんの歴代のグッズが出て来るシーンもあるので、そちらも要チェックです!』

撮影:大村祐里子